CX-5に気筒休止エンジン登場:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
マツダはCX-5の商品改良モデルを発売した。改良の中心はエンジンだ。新たに世界統一基準とするべくスタートした燃費基準、WLTPへの対応である。
直噴と電制技術で乗り越えた
現在ではガソリンエンジンでも気筒毎配置の直噴高精度インジェクターが普及し、必要な気筒にのみ最適な燃料噴射ができるようになった。電制スロットルのノウハウも充実して切り替え前後の不自然さを減らすことが可能になり、冷却水の温度マネジメント技術も向上した。これに加えて、SKYACTIV-G 2.5には、点火タイミングを変えて切り替え時のトルクの段差を緩和する制御技術も投入されている。
しかし、問題はまだある。2気筒になったときの振動をどうするかだ。2気筒エンジンはガサツなエンジンでドンドコバタバタと煩く、振動も多い。これを解決しなくては商品にならない。
休止中の2気筒がどうなっているかと言えば、吸排気のバルブは閉じたままである。シリンダーの中にあるのはただの空気だ。ピストンが圧縮行程にある間はシリンダー内の空気を圧縮するためにエネルギー損失が起きるが、ピストンが下がるときには圧縮した空気に押し戻される。これで休止中の気筒に関しては損失は差し引きほぼゼロになる。
しかし、厳密に言えばピストンリングの気密性の限界があるため、クランクケース側に空気は多少漏れ出してしまう。そうやって空気量が徐々に減ると、休止が長くなるに連れて下死点ではシリンダー内が負圧になる。これは2つの問題を引き起こす。1つは4気筒に復帰するとき、開いた排気弁から排ガスが逆流し、新気の吸入の邪魔をすること。もう1つは休止の間にピストンリングの隙間から潤滑オイルを吸い上げてしまうことだ。
4気筒復帰時にはこれらの状態を正確に把握してスムーズに4気筒の正しい燃焼に引き戻さなくてはならない。マツダでは吸気管やクランクケースの圧力をモニターしながらバルブタイミングと点火タイミングを適正に調整することでこうした問題の解決を図っているが、そうした機能が何らかの理由で故障した場合に備えて、異常が起きたらエンジンを止めて保護する機能を追加することでエンジン破損のリスクを回避するのだと言う。
それだけのリスクを取ってでも吸排気弁を閉めて休止させるのは、仮に休止中に吸排気弁を開けておいたら、空気を吸い込んで吐き出すポンプとしての仕事が発生し、エネルギーをロスしてしまう。だから弁を閉じて可能な限り差し引きゼロを狙うのだ。
ありがたいことに休止中の2気筒は、活動中の2気筒と力の発生が逆位相なので、そこで圧縮と膨張の仕事が発生することは多少なりとも振動削減に貢献してくれる。だが、360度に1回の燃焼という同位相2気筒エンジンは手強い。本質的な解決はそれだけでは無理だ。そこでマツダはトルクコンバーターに振り子式の重りをつけて振動をダンピングすることにした。別にマツダの発明ではない。筆者が最初にこのアイディアを見たのは30年も前のモーターファン誌に載っていた故兼坂弘氏のエンジン評論だ。
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