経理がAIに乗っ取られる、は本当か?:これからの経理のあり方(4/4 ページ)
AIの台頭によって失う仕事として、よく「経理」が挙げられる。しかし、長年経理の業務に携わってきた筆者は「そんなことはない」と言う。そのわけとは……?
新しい仕事を「創る」
経理業務自体の今後についても触れましょう。未来の経理業務は、2極化が徐々に進んでいくことでしょう。
AIがトップに立って全てを仕切るのは困難です。そして末端のこまごまとした例外作業も、人間と比較するとそこまで競争優位性が高くありません。トップと末端の中間、ミドルレンジの仕事がAIは得意です。つまりその中間層で働いている人とAIの競争になるでしょう。
業務処理スピードは、最初は人間が勝っていても、徐々にAIが学習していき、いずれ人間を追い抜くでしょう。すると、ミドルレンジの業務の一部をAIなどが担うようになり、そのレンジにいた人たちは、少なくともミドルレンジからどこかへ異動しなければならないのです。その異動先は主に4つで、AIの上に立ってAIを操作する立場になるか、反対にAIの下働きをするか、それともAIを活用して新しい仕事を自分で「創る」か、会社自体を出るか。そのいずれかを選択しなければならないでしょう。末端の仕事であれば、簿記の知識も必要ない業務でしょうから、収入も多くは見込めないことでしょうし、学生アルバイトを雇えば十分かもしれません。そのようなことを踏まえて、今、経理は何をしなければならないでしょうか。
1つは、たとえどのような小さな仕事であっても、責任者としてその仕事をやり通して結果を出す、という経験を積んでいくことです。その経験を通じて、例えば、業務フローのどこにRPA(ロボットによる業務自動化)などの技術を取り込めばもっと便利になるかを提案できたり、それをマネジメントできたりすれば、その人は小さな仕事であっても、いったんAIの上のレンジに入ることができます。そして、その業務範囲を少しずつ広げていけばいいのです。
もう1つは、AIなどの技術を使って、新しい経理業務を「創り出す」ということです。AIは分析、解析などは得意ですから、会社のさまざまなデータを用いた分析業務は、今後増えていくことでしょう。
現状でも、前年対比、前月対比、予算対比といった分析作業が経理業務にはありますが、そのような分析業務の経験を、今担当でない人たちも積極的に自己啓発として積むことが大切だと思います。経理部自体は、会社の計数的データを閲覧できるメリットがあるのですから、今日現在、分析担当ではない人でも業務の隙間時間などに自分で自己研鑽のためにやろうと思えばできるはずです。それが経理における「自己啓発」ということです。やる気のある人はやるし、そうでない人は何もしないでしょう。地道な努力をする人としない人の差は、AIなどが進化すればするほど、アリとキリギリスのように広がっていくはずです。
結論として、これからの経理社員の働き方のポイントは、
- AI、クラウド、RPAなどではできない業務を洗い出し、その部分の仕事のスキルを研鑽する
- 例外処理を対応できるレベルの経理スキルは持つ
- AI、クラウド、RPAなどを無駄なく効果的に導入、活用する方法を会社に提案し、それをマネジメントできるようになる
この3点を意識して業務に取り組んでいけば、まず間違いなくどのような時代になっても経理として生きていけることでしょう。
著者プロフィール
前田康二郎(まえだ こうじろう)
流創株式会社 代表取締役
1973年愛知県名古屋市生まれ。学習院大学経済学部を卒業後、数社の民間企業で経理・IPO業務を中心とした管理業務、また中国での駐在業務を経て独立。現在は「フリーランスの経理部長」として、経営コンサルティングや企業の経理社員などへの実務指導、サポート業務などを行っている。ファイナンシャルプランナー、日本語教師としての活動も行っている。近著に「経営を強くする戦略経理」(日本能率協会マネジメントセンター)。
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