「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
ラーメン店「一蘭」といえば、食事をするスペースが仕切られている味集中カウンターが有名である。珍しい光景なので、外国人観光客も写真を撮影しているのでは? と思っていたら、店員さんに「オーダー用紙を持ち帰りたい」という声が多いとか。なぜ、そんな行動をしているのかというと……。
ラーメンの価値を上げることに集中
今でこそ、サービス産業生産性協議会の「ハイサービス日本300選」も受賞するなど業務効率化で知られる一蘭だが、もともと1号店をたち上げたときはまだオーダー用紙は存在しなかった。店の入口に吉冨社長が立ち、訪れたお客さんひとりひとりに好みを聞いて、麺の硬さや脂の量を示す札を厨房に渡すという、よくあるスタイルをとっていたのだ。
好みをうかがうにあたって、一蘭の「秘伝のタレ」などの口上を吉冨社長が述べるのが客から大いにウケて、「名物店主のいる店」として評判だったという。だが、そんなある日、吉冨社長は妻からこんなことを言われる。
「ねえ、これってすごく効率悪くない」
確かに、吉冨社長が常連客の好みを聞いたり、ラーメンの味を説明したりしているとそれだけ労力も時間も割かれてしまう。それらのリソースを、ラーメンづくりへまわしたほうが、品質もさらに向上できるし、ひとりでも多くの客に短時間で提供できる。かくして、吉冨社長は店の入口から消え、客自らが記入するオーダー用紙が誕生したというわけだ。
「私の口上を楽しみにしていたお客さまも多くいらっしゃいました。『この大将、おもしろいのよ』とわざわざタクシーで来てくださった方もいましたので、しばらくは『大将、今日どこいったの?』と惜しまれたりもしました。でも、一杯のラーメンを研ぎ澄ませる目的があったので、迷いはなかったです」
つまり、一杯のラーメンの価値を上げることに集中するため、「名物店長の前口上」という常連客から評価されていた強みをスパッと捨ててしまったのだ。
この選択と集中にこそ、生産性向上のカギがあるような気がしてならない。
あれできます。これも得意です。そんな風にオールラウンダーをうたい、いろんなものにちょこちょこと手を伸ばしている人間が、なにかのプロフェショナルになれないのと同じで、「選択と集中」ができない組織は、生産性向上につあがる「付加価値」を生み出すことができない。
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