お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ:来場者12万人から40万人へ「V字回復」(4/4 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。
飼育員同士が切磋琢磨する
個人の責任を明確にし、創意工夫を引き出すために、人事制度を立候補式の「担当制」である「単独性多担当持ち」に変えた。上司が指示した水槽をチームで管理するのではなく、自分がやりたい水槽を立候補制で申し出て、飼育から展示までを基本的には1人で担うのだ。
「展示が面白くなくてお客さんから素通りされるようなことが続くと、他の人に担当を替えられてしまいます」。自分が担当している水槽の管理を効率的にこなし、人気のある展示を作ることができれば、好きな生き物を他の人から「奪いに行く」ことも可能なのだ。この制度のおかげでほどよい緊張感が生まれ、ダラダラと働くスタッフはいなくなった。
客数が数年前の3倍以上に増え、ゴールデンウィークや夏休みは多忙を極める現在、スタッフの給料は以前より1.5倍近くに上げたと小林さんは明かす。他に、新しい企画などを提案すると金一封をもらえる制度も導入した。
ただし、水族館に勤める人の最大のモチベーションはお金ではなく、「好きな生き物を飼うこと」なのだ。実は対人関係が苦手だと告白する小林さん自身、自宅で500匹以上のメダカを飼っている。できればずっとメダカを見つめて暮らしていきたいが、それでは水族館で働く資格はない。魚に興味がない人でも楽しめて、少しでも魚を好きになる場を作ることが自分たちの仕事である。それを明確に自覚するために、緊張感の高い「単独制多担当持ち」のような制度が必要なのだ。
予算がない、スタッフが少ない、そもそも客が来ない。かつての竹島水族館のような状況にある会社は世の中に多い。言い訳のネタならば事欠かない。しかし、環境が悪ければ悪いほど、「お客さんが求めることをなりふり構わずにやってみよう」と開き直ることもできる。起死回生の改革案や本当に顧客に喜ばれるアイデアはそこから生まれるのだ。小林さんが率いる竹島水族館の成功と現在進行形の奮闘は、「仕事とは何か」という問いへのシンプルな答えを教えてくれる。
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年5月現在で通算96回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式ホームページ https://omiyatoyo.com
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