日本の親が子どもを「モノ」扱いしてしまう、根本的な理由:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(5)が虐待の末に死亡した。痛ましい事件が起きた原因として、専門家からは「児童相談所と警察がきちんと連携していなかったからだ」「児相の人員が不足しているからだ」といった声が出ているが、筆者の窪田順生氏は違う見方をしている。それは……。
親子心中が減って、児童虐待が増えた
つまり、「子どもは親の所有物」という日本の伝統的親子観は、平成の世にも脈々と受け継がれている可能性が高いのだ。
確かに、「親子心中」は戦前の年間200件、80年代の400件に比較するとかなり減少している。この問題に取り組んでいる「子どもの虹情報研修センター」の川崎二三彦センター長が『サイゾーウーマン』(2016年8月2日)で語ったところによると、2000年代の10年間について、18歳未満の子どもを道連れにした心中事例を新聞報道を基に調べたところ、395件、被害児童は552人に上っていたという。
だが、これで日本の親の「子どもをモノ」としてとらえる「病」が克服できたと判断するのは早計だ。「親子心中」が減っていくのと反比例するかのように今度は児童虐待が増加しているのだ。厚生労働省の統計によると、「児童虐待」は90年に1101件だったものが、この25年間で10万件超えと100倍に増えているという。
児童虐待問題を扱う人々は「親子心中」を「親による子殺し」として虐待の一形態とみている。つまり、親子心中という虐待が減ったのは、その分だけで暴力やネグレクト、言葉いじめなど直接的な虐待に流れている、と見ることもできる。
つまり、自分が苦しくてもう死でしまいたいという欲求に、子どもという所有物を付き合わせていた親が減った代わりに、今度は、自分の苦しさや、行き場のない怒りをモノに当たるように、子どもにぶつけて憂さ晴らしをしている親が増加しているのだ。
私は絶対に違う。子どもを自分の所有物だなんて思っていない。多くの日本人は胸を張って言えるかもしれないが、海外からみれば我々ほど子どもを「モノ」扱いしている国はない。分かりやすいのが、タバコだ。
昨年10月5日、東京都議会で「子どもを受動喫煙から守る条例案」が成立した。これは、子どもがいる家庭や、自動車の中での禁煙を努力義務とした条例だが、構想がでた段階では、『東京新聞』など日本を代表するリベラル論壇から「治安維持法の再来だ」「監視社会の到来」など怒りのクレームが殺到した。
これは、「子どもは親の所有物」という思想が根強く残る社会だからこそ生まれた極めてユニークな発想である。親とはいえ、子どもにタバコの煙を強制的に吸わせるのは「虐待」というのが、世界では常識だからだ。
例えば、親であっても子どものいる自動車内で喫煙することを罰則付きで禁じているのは、米国ではカリフォルニア州やオレゴン州など8つの州、オーストラリア、カナダ、イングランド、フランス、バーレン、キプロス、モーリシャス、南アフリカ、アラブ首長国連邦など例を挙げればきりがない。
だが、そういう話をしても日本人の多くは「家庭のことに国が口出しをするなんて」という声があがる。今回の品川児相が親から文句を言われて引き下がったように、この国では子どもの安全より、「親の権利」を尊ぶという近代日本から続くカルチャーがまだ延々と続いている。
親に養ってもらっている「所有物」なのだから文句など言わず、親が吸っているタバコの煙を吸い込むべし。そんな伝統的親子観に、リベラルと呼ばれる人々でさえいまだとらわれていることが、この「日本人特有の病」の根深さをよく物語っている。
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