マツダの意地を賭けたCX-3の改良:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
マツダのCX-3が大幅な変更を加えられて登場した。主査も意地を賭けての商品改良である。どのように変化したのだろうか。
リベンジの仕上がり
さて、運転席に座ってみる。ポジションは変わらないが、これは12年以降に登場した第6世代のマツダ車は皆良くなっている。もちろんCX-3も例外ではなく、自然で好ましいポジションだ。
変わったのはシートである。マツダの説明によれば、ウレタンの減衰力を高めたとのこと。形状そのものは変えていないそうだが、骨盤の角度維持能力が明らかに向上している。ここしばらくのマツダ車の中で見てもこれはベストと言えるだろう。最近のマツダは、人体に関するほぼ完璧な理論に対し、シートの出来は悪くなかったにせよ、言うほどのものになっていなかった。だが今回、理論に現実がだいぶ追いついた。
走り始めると、排気量を300cc増やした新しいSKYACTIV-D 1.8の効果は明らかで、低速からのツキでも、車体重量に対する余裕でも進化が感じられた。CX-3を小さな高級車として捉えるなら、従来のSKYACTIV-D 1.5には余裕が足りなかった。必要にして十分であったことは認めるが、お釣りがまるでなかった。それはミニマリズムとしては正しいかもしれないが、高級かと問われると苦しい。余裕の有るなしを人は感じる。そういう余分が高級を作るという意味ではこの排気量アップには大きな意義があると思う。変速機も含めたパワートレインの出来は小さな高級車と言えるものになった。
駐車場を出て注意深く乗り心地をみる。懸案のばね下のぶるぶるは見事に消えていた。市街地でのハンドリングは極めて自然。これ見よがしなアジリティ(敏捷性)こそないが、マツダが目指すのは「人が歩いているように走る」こと。違和感を消すと言うより、むしろクルマの存在を消すくらいの勢いで考えている。歩くときに「おお、今の右足の蹴りは良い感じだった」とか「水たまりを避ける俺のフットワークって敏捷」とかいちいち考えない。息をするように無意識で普通に歩いている。無意識で走れるという理想にCX-3の市街地でのハンドリングは大幅に近づいていた。
高速道路に入る。幸いにも空いていて、まさに気持ち良いクルージングができた。ぶっ飛ばすような運転をしても仕方ないので、すいすいと普通に走る。問題があったのはここだ。
マツダの資料には「安心して意のままにクルマを操る楽しさはそのままに、対極にある“乗り心地”と“操縦安定性”を向上させました」とあるが、それは素直にそのまま受け取れなかった。流れに乗って走る速度でステアリングを切り始めると初期ロール速度が速い。つまりグラっと来る。特に斜め方向。分かる人にはダイアゴナル・ロールと言った方が分かりやすいかもしれない。ここに不安感がある。その程度が我慢できないほどのものかと言われれば、世の中にはそもそもこれくらいの動きのクルマはたくさんある。今のマツダには他にないだけである。
資料を見直すと「コイルばね定数の低減」と「フロントスラビライザーの小径化」とある。つまり乗り心地の改善のためにばねやスタビを柔らかくし、その分はショックアブソーバーの能力を上げてその補完を狙ったと思われる。しかしショックアブソーバーはオイルの流路をバルブで狭めて減衰を作り出す仕組みだから、オイルが流れ始めてから、つまり動いてから初めて機能する。動き出しの瞬間を制御するのは不可能ではないまでも苦手な仕組みなのだ。その領域の押さえ込みはばねとスタビの方が遺漏なく効く。
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