日本人の働き方が変わらない、本当の原因は「大縄跳び競走」にある:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
先週、働き方改革法案が成立した。といっても、サラリーマンの多くは「どうせ変わらないでしょ」と思っているのでは。日本人の働き方はどのようにすれば変わるのか。筆者の窪田氏は法整備よりも、小学校で行われている「大縄跳び競走の中止」を訴えている。どういう意味かというと……。
「集団主義」という病に冒されている
1960年代の「集団主義教育」の旋風が吹き荒れるなかで、異を唱えた人も大勢いた。当時の東京世田谷和光学園教頭はこうおっしゃっている。
「個人は無力だ。だから集団で…というのはちょっと飛躍しすぎやしないか。無力だからこそ個人がもっと音楽や美術を鑑賞し、知識を獲得して自分が強くなることが大切だ。それがないと無力感を克服できない。集団を強調するとかえって個人を弱めることがあることも考えるべきだろう」(同紙)
国際比較調査グループISSPが、31の国・地域を対象にして「国への帰属意識」を調べた。そのなかで日本は、「一般的に言って他の多くの国々よりこの国は良い国だ」と回答した人の数でダントツで多く1位で、「他のどんな国の国民であるより、この国の国民でいたい」というのも3位だった。その一方、2014年に内閣府が実施した若者の意識調査では、「自分自身に満足している」と答えたのは45.8%。米、英、仏、独、スウェーデン、韓国など7カ国と比較して少なかった。
日本人という「集団」を強調したことで、「個」が弱くなっている。これこそが我々が集団主義という病に冒されている証左である。
多くの日本人が抱いている、「どうせ日本人の働き方はそう簡単に変わらない」という無力感を克服するためにも、「個人」が強くなならなくてはいけないわけだが、50年間続けられた「みんな一緒」という「呪い」から解き放たれるのは容易なことではない。
我々のようなおじさん世代はもう手遅れかもしれないが、未来を担う子どもたちにはまだ希望がある。
「大縄跳びなんて、やりたい人だけがやればいいじゃん」と誰もが胸を張って言えるようになれば、多くの人が「生きずらさ」を感じるこの国も、きっと変われるのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのか
ラーメン店「一蘭」といえば、食事をするスペースが仕切られている味集中カウンターが有名である。珍しい光景なので、外国人観光客も写真を撮影しているのでは? と思っていたら、店員さんに「オーダー用紙を持ち帰りたい」という声が多いとか。なぜ、そんな行動をしているのかというと……。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。 - 日本の親が子どもを「モノ」扱いしてしまう、根本的な理由
東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(5)が虐待の末に死亡した。痛ましい事件が起きた原因として、専門家からは「児童相談所と警察がきちんと連携していなかったからだ」「児相の人員が不足しているからだ」といった声が出ているが、筆者の窪田順生氏は違う見方をしている。それは……。 - モスバーガーが「創業以来の絶不調」である、もうひとつの理由
業界第2位のモスバーガーが苦戦している。「創業以来2度目の絶不調」とも言われ、あれが悪い、これが悪いとさまざまな敗因が取り沙汰されている。どれも納得のいく話であるが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。それは……。 - なぜレオパレス21の問題は、旧陸軍の戦車とそっくりなのか
レオパレス21が「界壁」問題で揺れている。界壁とは、部屋と部屋の間を仕切るモノだが、同社の物件には屋根まで達成していないモノが複数存在していることが分かった。この問題に対し、筆者の窪田氏は「日本型組織のスタンダート、というか伝統だ」と指摘する。どういう意味かというと……。 - なぜ日大は炎上したのか? 原因は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在
日大アメフト部が大炎上している。普段、大学にもアメフトにも危機管理にも関心のない人が、なぜこの問題に“参戦”しているのか。筆者の窪田順生氏は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在を挙げている。どういう意味かというと……。 - 大東建託が「ブラック企業」と呼ばれそうな、これだけの理由
電通、NHK、ヤマト運輸など「ブラック企業」のそしりを受ける大企業が後を絶たないが、ここにきて誰もが名を知る有名企業がその一群に加わるかもしれない。賃貸住宅最大手の「大東建託」だ。なぜこの会社がブラック企業の仲間入りするかもしれないかというと……。 - 「551蓬莱の豚まん」が新幹線で食べられなくなる日
新大阪駅で「551蓬莱の豚まん」を買ったことがある人も多いのでは。新幹線の車内でビールと豚まんを食した人もいるだろうが、こうした行為が禁止されるかもしれない。どういうことかというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.