文科省の局長逮捕は「天下りシステム」崩壊の副作用ではないか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
文科省の科学技術・学術政策局長が逮捕された。息子を裏口入学させる見返りに、大学に便宜をはかったとされているが、なぜこのような不正を行ったのか。筆者の窪田氏は「天下りシステム崩壊の副作用ではないか」とみている。どういうことかというと……。
文科省という組織にとっての「正義」
ご存じのように、天下りはどういう理屈をつけても、官僚の特権を用いて、民にOBの生活保障をさせる汚職という側面がある。これを組織ぐるみで行っていた文科省では2008年から大型汚職は起きていない。ということは、組織ぐるみで汚職ができるスキームをつくったことが、個々の汚職の歯止めになっていた可能性があるのだ。
バカバカしいと思うかもしれないが、天下りが単なる個人の私利私欲のためではなく、文科省という組織のガバナンスのために行われていたのは明らかだ。
文科省の組織的天下りが発覚した際、国民が衝撃を受けたのは「安倍政権に逆らったら出会いカフェ通いがリークされました」でおなじみの、前川喜平さんをはじめ三代の事務次官がこれを主導していたことだった。
いまでこそ「正義の告発者」として『朝日新聞』とタッグを組んで、佐川宣寿前財務相理財局長に対して「私ならありのままを語る」「正直に生きろ」とご高説を垂れる前川さんだが、ご自身が国会で追及されたときは佐川さんをほうふつさせる官僚答弁を連発して、『朝日新聞』からも叩かれていた。
「退職金返上を迫られると、「既に処分をいただいている」と言葉を濁した。前川氏の行為で国家公務員法違反とされたのは2件。江田氏はそのうち1件に関わった学校法人の具体名を出すよう迫ったが、前川氏は「差し控える」と答弁し、場内はざわついた」(朝日新聞 2017年2月7日)
「行政が歪められた」と安倍政権を糾弾した正義感の塊のような方が、なぜ官僚のルールを歪めた組織的天下りを主導し、共犯者の名を墓場まで持っていく勢いで隠ぺいしたのかというと、それが文科省という組織にとって正義だからだ。
我々一般国民は「天下り」と聞くと、「ああ、官僚が立場を使って私服を肥やすためのものね」と思うかもしれないが、やっている本人たちはそんなことは微塵(みじん)も感じていない。組織の秩序を守り、構成員たちの不正や離反を防ぐための"必要悪"だと感じている。
退官後も生活保障があるから、辛い仕事もやってのける。出世争いに敗れても、それなりのポストを組織が用意をしてくれるので怨念化しない。天下りは役所内の不平不満を押さえ込むと同時に、血みどろの内部抗争を防ぐガバナンスとしての役割を担っていたのだ。
この安心をこれ以上ない形で示したのが、文科省の天下りシステムだった。2008年以降、文科省内で個人がリスクを負って危ない橋を渡る汚職が消えたのは、組織的に汚職を「代行」してくれるこのシステムが機能したことで、多くの官僚から「退官後の不安」が消えたことが大きいのである。
だが、その安心が崩壊してしまう。2017年1月に再就職等監視委員会によって悪事として糾弾されたのだ。これが文科官僚たちに与えた精神的ショックの大きさは容易に想像できよう。
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