なぜカシオの「余り計算機」は、いまの時代でも売れているのか:あの会社のこの商品(1/5 ページ)
調剤薬局や物流会社の倉庫では、電卓で余りを計算することが頻繁にあり、効率化が求められていた。このようなニーズから生まれたのが、カシオ計算機の「余り計算電卓 MP-12R」だ。特定のユーザーを対象にした専門的な機能を搭載したニッチな電卓の、誕生までの歩みを追った。
スマホアプリで十分だから買うまでもないよ――。電卓についてこんな風に考えている人も多いだろう。
このような状況ではもはや、電卓のヒット商品は生まれないと思われる。ところが、これはまったくの誤解であり、特定の業務をターゲットにした特別な機能を持つモノであれば、電卓でもまだヒットを生むことができる。このことを証明したのが、カシオ計算機の「余り計算電卓 MP-12R」(以下、余り計算電卓)だ。
2017年7月に発売された「余り計算電卓」の特徴は、割り算の答と余りを同時に出すこと。余りのある割り算を日常的に行う現場に役立つ[÷余り]キーを搭載した。通常の電卓で余りを求めるよりも計算回数を減らすことができるため、計算業務を効率化することができる。珍しさからか、発売と同時にSNSを中心に話題が拡散。一時は生産が間に合わず欠品を起こしてしまったほどだった。
余り計算電卓は一般的な電卓にはない機能を搭載しているので、新しく考案されたモノのように思えるが、実は余り計算は決して新しい技術ではない。1976年に同社が発売した、世界で初めて分数計算を可能にしたパーソナル電子計算機「カシオ AL-8型」にはすでに、余り計算の機能が搭載されていた。
事業戦略本部教育関数BU 営業戦略部営業戦略室 リーダーの塙英雄氏は、余り計算電卓開発のきっかけとして、同社のお客様相談室に問い合わせがあったことを挙げる。2015年ごろ、余り計算ができる同社の分数電卓に関する記事を見たある物流会社から「余り計算ができる電卓をつくってもらえないか」という要望が繰り返し届いた。「その物流会社は『1000台買うからつくってくれないでしょうか?』とおっしゃったのですが、電卓は1000台つくっただけでは採算が取れないので、その時は『関数電卓でご対応ください』と説明し断っていました」と塙氏は振り返る。
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