「クールジャパン」迷走の背景に、日本人の“弱点”アリ:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
官民ファンド「クールジャパン機構」が大きな損失を出している、といった報道があった。「自民党が悪い」「安倍政権が悪い」といった声があるが、こうした指摘は“正しい”のか。問題の本質はどこにあるのかというと……。
「日本人は世界のなかでも特別な存在」という選民思想
そういう人たちが叡智を集結してつくったものが、なぜ日本が泥沼の戦いに突入した時代の「自画自賛本」と瓜二つなってしまうのか。
「参考にしました」というのならいい。だが、無意識に同じような発想になってしまったとしたら、これほど恐ろしいことはない。
我々はちょっと気を抜くと、「日本人は世界のなかでも特別な存在」という選民思想にとらわれ、そのような価値観を異国の人たち、異文化の人たちに平気で押し付けてしまう。そんな病的気質があることの証だからだ。
ご存じの方も多いだろうが、「クールジャパン」というのは、英国で90年代に行われた「クール・ブリタニア」のパクりである。
この言葉は今や英国人にとって黒歴史扱いだ。自国の文化を「かっこいい」と自慢して、他国へと押し付けようという傲慢さがクールじゃない、というもっともな指摘からだが、もしかしたらこの響きが、よその国を植民地にしてまわった大英帝国時代の「傲慢さ」を思い返させるからかもしれない。
「帝国」をうたい、自民族が優れていると触れ回るような「傲慢さ」が国を自滅させるというのは、歴史が証明している。
「躍進日本」で頭がのぼせあがって戦争にボロ負けした過去に学べば、「世界が驚くクールジャパン」とはしゃぎながら、東京五輪や大阪万博という国家プロジェクトに突入すれば大惨敗を喫する可能性は極めて高い。
「586億円も注ぎ込んでいるんだ、今さら後に引けるか」では70年前と同じく屍(しかばね)の山ができるだけだ。「負け」を潔く受け入れる。どん底から這(は)い上がるため、奢(おご)ることなくコツコツと地道な努力を続けていく。そういう日本人の謙虚さこそ、外国人は「クール」と感じるのではないか。
引き返すのは今しかない。果たして我々は長く患ってきた「傲慢さ」を克服することができるのか。それともまた同じ負けパターンにのってしまうのか。注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
関連記事
- 「一蘭」にハマった外国人観光客は、なぜオーダー用紙を持って帰るのか
ラーメン店「一蘭」といえば、食事をするスペースが仕切られている味集中カウンターが有名である。珍しい光景なので、外国人観光客も写真を撮影しているのでは? と思っていたら、店員さんに「オーダー用紙を持ち帰りたい」という声が多いとか。なぜ、そんな行動をしているのかというと……。 - 「石原さとみの眉が細くなったら日本は危ない」は本当か
女優・石原さとみさんの眉がどんどん細くなっている。彼女のファンからは「そんなのどーでもいいことでしょ」といった声が飛んできそうだが、筆者の窪田さんは「日本経済にとって深刻な事態」という。なぜなら……。 - なぜ日本のおじさんは怒ると「責任者を呼べ!」と騒ぐのか
街中を歩いていて、おじさんが「責任者を出せ!」と騒いでいるのを聞いたことはないだろうか。例えば、駅員に大声を出したり、コンビニの店員を叱ったり、とにかく日本のおじさんはよく怒っている。なぜおじさんは「責任者を呼べ!」と叫ぶのか、その背景を調べてみると……。 - 大東建託が「ブラック企業」と呼ばれそうな、これだけの理由
電通、NHK、ヤマト運輸など「ブラック企業」のそしりを受ける大企業が後を絶たないが、ここにきて誰もが名を知る有名企業がその一群に加わるかもしれない。賃貸住宅最大手の「大東建託」だ。なぜこの会社がブラック企業の仲間入りするかもしれないかというと……。 - 日本人が「通勤地獄」から抜け出せない、歴史的な背景
暑くなってきたので「満員電車」が辛くなってきた。「働き方改革を実現しよー」「時差出勤をしよー」と叫ばれているのに、なぜ“通勤地獄”は解消されないのか。その歴史をひも解いてみると、意外な事実が……。 - 日本の親が子どもを「モノ」扱いしてしまう、根本的な理由
東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(5)が虐待の末に死亡した。痛ましい事件が起きた原因として、専門家からは「児童相談所と警察がきちんと連携していなかったからだ」「児相の人員が不足しているからだ」といった声が出ているが、筆者の窪田順生氏は違う見方をしている。それは……。 - モスバーガーが「創業以来の絶不調」である、もうひとつの理由
業界第2位のモスバーガーが苦戦している。「創業以来2度目の絶不調」とも言われ、あれが悪い、これが悪いとさまざまな敗因が取り沙汰されている。どれも納得のいく話であるが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。それは……。 - なぜレオパレス21の問題は、旧陸軍の戦車とそっくりなのか
レオパレス21が「界壁」問題で揺れている。界壁とは、部屋と部屋の間を仕切るモノだが、同社の物件には屋根まで達成していないモノが複数存在していることが分かった。この問題に対し、筆者の窪田氏は「日本型組織のスタンダート、というか伝統だ」と指摘する。どういう意味かというと……。 - なぜ日大は炎上したのか? 原因は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在
日大アメフト部が大炎上している。普段、大学にもアメフトにも危機管理にも関心のない人が、なぜこの問題に“参戦”しているのか。筆者の窪田順生氏は「オレはそんなこと言っていないおじさん」の存在を挙げている。どういう意味かというと……。 - 「551蓬莱の豚まん」が新幹線で食べられなくなる日
新大阪駅で「551蓬莱の豚まん」を買ったことがある人も多いのでは。新幹線の車内でビールと豚まんを食した人もいるだろうが、こうした行為が禁止されるかもしれない。どういうことかというと……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.