“世渡り力”だけでは生き残れない ダメ人間のための「フリーランス入門」 :あの宮崎駿も最初はうまくいかなかった(4/4 ページ)
フリーランスには「40歳の壁」がある――。こんな指摘をしたフリーの編集者である竹熊健太郎氏の書籍が話題を集めている。どうすればフリーランスは40歳以降も生き残っていけるのだろうか。39歳のフリーライターが、竹熊氏に聞いてみた。
これからは「ネットメディアの時代」
私自身は雑誌などの紙と、ネットメディアの両方の媒体で仕事をしている。しかし最近ではネットメディアの仕事がほとんどであり、紙に固執したほうがいいのか、ネットメディアに流れていったほうがいいのか、とよく考える。そのことを竹熊さんに聞いたら、「もうネットメディアしかない。紙には未来がなく、マイナーな存在になっていく」という。竹熊さんによれば、出版社はかつての映画会社のようになり、リストラが行われ、不動産事業で食べていくようになる可能性が高いという。
一方で私は、フリーにとって紙の単著の仕事はまだまだ魅力的だと考えている。私も単著を出してきた。これについて竹熊さんは「確かに(単著を出すことで)話題になることは必要」だという。しかし実は、竹熊さんの本は、電子書籍のほうが売れているとのことだ。
漫画はすでに電子書籍への移行が進んでいて、この先は一般書籍にも電子化の波が押し寄せるのではないかと、私は考えている。
私自身はこれからも紙の単著を出していきたいとは思っているし、だから紙の仕事もやっている。しかし一方で、ネットメディアの仕事には大変な魅力を感じている。読者からの反応がダイレクトに感じられるし、Twitterでエゴサーチをしていても、自分が書いた記事が読まれていることを実感できるからだ。時々、記事について嫌なことを言われるのがつらいこともあるのだが(笑)。
自分ができることで勝負
竹熊さんは『フリーランス、40歳の壁』の最後の章で、フリーランスの生き残り方として「起業して社長になること」をすすめていた。だが正直、私はこれには反対である。
私にとって会社内の人間関係は非常に面倒だ。自分が社長だからといって社内で好き勝手にふるまっていいかというと、決してそんなこともない。
せいぜい1人でできる程度のことを法人化するのが理想なのではないかと竹熊さんに問うと、こう答えた。「私(竹熊さん)自身が会社を法人化したのは、自分がやらなくても良い仕事を他人に任せられるからだ」。いろいろと事務仕事などが面倒なのだという。
まあ、個人事業主である私の場合は、事務仕事といっても請求書を書き、入出金を会計ソフトに入力する程度のことなので、大して手間でもない。
それよりも考えなくてはいけないのは、フリーとしてどう生きるかだ。竹熊さんはそんな私に「自分でできることだけで勝負。できないことや、やりたくないことを切り捨てる」と、アドバイスをくれた。
どういうことなのか。竹熊さんは『フリーランス、40歳の壁』で登場する成功者の事例を挙げて説明した。例えばフラッシュアニメ「秘密結社鷹の爪」のヒットで知られる映像制作会社ディー・エル・イー(東京都千代田区)の取締役で、CGクリエイター・声優・監督のFROGMAN(フロッグマン)さんの例がある。
FROGMANさんはもともと仕事としてのアニメの制作経験は皆無だった。だが、それまで培ってきた脚本や編集の技術を生かし、アニメ自体は簡単な絵で動かすことができる「FLASH」というソフトを駆使することによって、全ての仕事を自分1人で完結したのだ。結果、超低コストで作品を作ることにより、「自作の権利を全て自分で持つ」という、映像業者にとっての「夢」を実現した。それまで培ってきた「自らができること」を、いかに生かすかが重要なのだ。
また、同書に登場するフリーの編集者・都築響一さんの働き方を「理想的」だと語っていた。竹熊さんによれば「(都築さんのように)嫌な仕事はやらないという姿勢を徹底していると、嫌な仕事がこない」のだと言う。都築さんは自分で道を切り開くタイプのフリーで、ネットで自分の仕事を発信してお金を稼いでいる。
竹熊さんは言う。「(表現系の)フリーが生きていくには、ネットしかない」。
竹熊さんの主張を聞き、改めて私はこう考えた。
得意な分野や、やりたい分野をネットメディアでどんどん発信するのが、アラフォーフリーが今後も生き残るための方法ではないだろうか。ちなみに私の場合、鉄道という強みがあり、この分野には大いに救われている。私は人間関係で、好かれるタイプではないことを自覚している。そういうタイプのフリーには、「できること」「やりたいこと」で勝負するしか道はないのだ。
著者プロフィール:小林拓矢(こばやし・たくや)
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学時代は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。単著『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)、共著に首都圏鉄道路線研究会『沿線格差 首都圏鉄道路線の知られざる通信簿』(SB新書)、ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)。
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