「定年後再雇用」の注意点は? 人事担当者必見の「働き方改革」用語解説:必須キーワードを識者が解説(3/3 ページ)
働き方改革関連法が可決・成立し、企業にも具体的な対応が求められます。企業の人事担当者が押さえておくべき「働き方改革」のキーワードをピックアップ。労働問題を扱う新進気鋭の弁護士が、用語の概念と企業が取るべき具体的な対策方法を解説します。今回は「再雇用時の労働条件」(定年退職前からの待遇変更)を取り上げます。
(3)その他の留意点
定年後再雇用時の労働条件変更が問題となった最近の裁判例を2つ紹介します。
「トヨタ自動車ほか事件(名古屋高裁平成28年9月28日判決)」は、業務内容の変更が問題となった事案です。同事件では、事務職に従事していた従業員に、定年退職後の再雇用時の職種として清掃業務などを提示したことが、高年齢者雇用安定法の趣旨に反し違法と判断され、慰謝料請求が認められました。
「九州惣菜事件(福岡高裁平成29年9月7日判決)」は、賃金の大幅減額が問題となった事案です。同事件では、月収ベースで約75%の減少につながるような再雇用条件を提案して、それに終始したことは継続雇用制度導入の趣旨に反し、裁量権の逸脱・濫用(らんよう)であるとして慰謝料請求が認められました。
注意すべき点をチェックリストで確認
用語解説で説明したように、定年後再雇用時に提示する労働条件では、(1)均等・均衡規制との関係、(2)定年退職前の労働条件との相違に留意してください。
定年後再雇用が「退職+新規採用」であり、いかなる労働条件を提示するかは企業(使用者)側の自由・裁量であるという単純な理屈で、再雇用時の労働条件を設定することはリスクが高い点に注意が必要です。
また、再雇用時の労働条件について、会社側が時間的余裕を持って提案したり、複数の選択肢を提案したりするなど、運用面での工夫も紛争防止の観点からは有益です。チェック項目と留意点を以下にまとめます。
1. 高年齢者雇用安定法の規制を確認したか?
高年齢者雇用安定法9条における継続雇用制度については、厚生労働省のWebサイトに説明があり、これらの内容を事前に確認しておく。
2. 会社の規程や運用内規を確認したか?
就業規則本体の定年部分、再雇用社員用の規程や労働契約書、再雇用者の対象基準が記載された労使協定や労働協約を確認する。運用レベルでも、従前の再雇用者の賃金水準や仕事内容をどのように設定・提示しているかを確認する。
3. 再雇用の労働条件を提示する時期は?
再雇用時の労働条件の提示に当たっては、労働者側からの要望を受けての変更交渉や検討の時間が必要であり、時間的に余裕を持ってスケジュールを設定する。
4. 提示する労働条件の内容や定年退職前との相違を説明できるか?
(1)定年退職前との業務・職責の変更があれば、再雇用時の労働契約書などに明記する。
(2)同一労働同一賃金(非正規社員の処遇改善)に関する法改正を視野に入れて対応する。
5. 契約期間の設定/無期転換制度との関係を確認
継続雇用後の契約更新が5年を超える場合は、労働契約法18条の無期転換制度の適用がある。定年後再雇用者の特例を認める「有期特措法」では事業者認定が必要となるので、同法の制度内容や手続きを併せて確認する。
著者プロフィール
高仲幸雄(たかなか ゆきお)
中山・男澤法律事務所パートナー弁護士
早稲田大学法学部卒業。2003年弁護士登録。現中山・男澤法律事務所所属。国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師。著者に『改訂版 有期労働契約 締結·更新·雇止めの実務と就業規則』(日本法令)、『異動・出向・組織再編 適正な対応と実務』(労務行政)など著書多数。
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