中小企業が見直すべき福利厚生とは?:昔とは違う従業員ニーズ(2/3 ページ)
深刻な人手不足の中、従業員の確保や定着を考える際に、第一義的に企業は賃金政策を重視する。しかし人々は賃金だけで勤め先を決めているわけではない。本稿では企業の福利厚生に着目し、近年の働き手の多様化やライフスタイルの変化に対応した制度を目指すことの重要性を指摘する。
福利厚生の現状と課題
働く人の多様な価値観やニーズに対応していくために、企業はどのような対策を講じるべきか、ここでは福利厚生の現状を整理する。
厚生労働省の「平成28年就労条件総合調査」から福利厚生の現状を確認すると、企業が独自に実施する「法定外福利費」は、企業規模が大きいほど1人当たり支給額が多い(図表2左図)。
現金給与額に占める法定外福利費の割合を見ると、従業員が1000人以上の規模と30〜99人の企業では約1.8倍の格差が見られる。
同調査から法定外福利費の内訳を見ると、30〜99人の企業規模で最も多いのが「私的保険制度への拠出金」であり、全体の約3割を占める(図表2右図)。他方、1000人以上企業のそれは4.2%とわずかである。「私的保険制度への拠出金」とは、従業員の生命保険等の保険料の一部または全部を企業が代わりに拠出する場合に計上される費用のことである。中小企業の方が、従業員が日々の暮らしで起こり得る病気やケガなどのリスクによって生じる経済的負担を最小限に抑えられるよう、企業が保険料を負担していると考えられる。
従業員1人当たりの支出額で見ると、中小企業は従業員の私的保険料に1102円拠出しており、大企業の386円の約3倍に上る。
ただ、結婚や出産や老後の資産形成のあり方など、従業員のライフスタイルが多様化する中、現在の福利厚生の内容が、中小企業の従業員にとって望ましいものであるのかはっきりしているわけではないだろう。従業員が求めるものと合致しているか確認を行い、もし合致していないのであれば、私的保険への拠出だけに重点を置くのではなく、従業員の多様なニーズに中小企業の福利厚生制度がこたえていけるよう制度を見直す必要があるだろう。
他方、「住居に関する費用」の割合は企業規模が大きいほど高い。全国に事業所を構える企業では、従業員が定期的に転勤することは少なくないため、その際に特に従業員の負担となる住宅費用を補助するなどの必要性が高く、大企業であるほど社宅や寮の整備、持ち家の補助などが行われていることがうかがわれる。
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