中小企業が見直すべき福利厚生とは?:昔とは違う従業員ニーズ(3/3 ページ)
深刻な人手不足の中、従業員の確保や定着を考える際に、第一義的に企業は賃金政策を重視する。しかし人々は賃金だけで勤め先を決めているわけではない。本稿では企業の福利厚生に着目し、近年の働き手の多様化やライフスタイルの変化に対応した制度を目指すことの重要性を指摘する。
多様な従業員ニーズにこたえる福利厚生とは
大企業と中小企業の福利厚生制度には、従業員1人当たり支給額に差があるだけではなく、福利厚生の中で重きを置いている項目に違いがあることが分かった。こうした実態を踏まえて、中小企業が福利厚生の中身を見直し、従業員の定着やモチベーションの向上を図るためにはどのような取り組みが考えられるだろうか。
日本経済団体連合会「福利厚生費調査結果報告」から、大企業における福利厚生を1986年からの30年間でどう変化したかその長期的な傾向を図表3で確認すると、「住宅関連」や「文化・体育・レク」(施設・運営、活動への補助)などの割合が低下する一方で、「ライフサポート」(給食、購買・ショッピング、被服、保険、介護、育児関連、ファミリーサポート、財産形成、通勤バス・駐車場など)と医療・保健衛生施設運営、ヘルスケアサポートなどが含まれる「医療・健康」を合わせた割合が上昇傾向にある。
こうした背景には、時代の変化とともに、従来の伝統的な福利厚生である独身寮や社宅、文化・体育・レクリエーションの余暇施設の利用補助といった施設充実型から、働く人の健康や子育て・介護といった家庭との両立を支援するようなサービスの充実へと福利厚生の質が変化してきたことが考えられる(※4)。
さらに、「カフェテリアプラン」のような制度の導入が2005年ごろから広がっていることも一因だろう。カフェテリアプランとは、従業員にポイントが付与され、従業員は提供されるさまざまなサービスからポイントの範囲内で好きなものを選ぶことができるという自由度の高い仕組みである。
中小企業のように、限られた人件費で従業員の多様なニーズに応え、働きやすい制度環境を提供するためには、こうした取組みを参考にして福利厚生を見直すことも一案だろう。
※4 労務研究所(2018)『旬刊福利厚生』(2018年1月下旬号 No.2240)の「人手不足と福利厚生の役割」において、福利厚生制度に詳しい山梨大学の西久保浩二教授は、「従来の伝統的な福利厚生では『衣・食・住・遊』の支援が中心テーマでしたが、現在は、心身両面での『健康』、両立支援としての『介護』『出産・育児』や(中略)労働生産性を高めるための『自己啓発』などの方向に福利厚生という名の人材戦略として『投資』が、大企業、中小企業問わず注目されている」と指摘している。
(菅原佑香/大和総研 政策調査部 研究員)
(本レポートは2018年6月に公開)
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