豆アジに申し訳ない――捨てていた魚が海鮮居酒屋の人気メニューに:3週間で500キロが売れた
廃棄されてきたアジの稚魚「豆アジ」。水産資源の無駄をなくすため、海鮮居酒屋「四十八漁場」が商品化したところ、人気が出たという。運営元に、その要因と背景を聞いた。
これまで市場価値に乏しいとして廃棄されてきたアジの稚魚「豆アジ」。「もったいない」という漁師の声を受け、海鮮居酒屋チェーンがメニュー化に取り組んだところ、客から好評を得ているという。
このチェーンは、「塚田農場」などを運営するエー・ピーカンパニー(APカンパニー)が都内などで展開する「四十八漁場(よんぱちぎょじょう)」(20店舗)。7月7日に発売し、29日までに約500キロ相当の3846食が売れたという。
これまでは廃棄対象
豆アジは、成魚になる前の初夏〜秋ごろのアジを指す。サイズが10センチ前後と小さく、食べられる部位が少ない一方、調理に手間がかかるほか、氷や箱などの保存・運搬コストがかさむ――といった理由で、飲食業界では買い手がつかないケースがほとんどだった。
誤って水揚げしないよう、漁師も網の目を大きくするなどの工夫をしているが、毎年一定数が網にかかってしまうという。獲れた豆アジは廃棄するか、養殖魚のえさとして処理してきた。
漁師は「豆アジに申し訳ない」
こうした状況に対し、APカンパニーと取引する佐賀県唐津市の漁師たちは「獲った魚を捨ててしまうのは非常に嫌だ」「豆アジに申し訳ない」「もったいない。何とかしたい」と感じていたという。
同社では普段から社員が漁師と意見を交換したり、ビジネスチャットを活用して収穫状況を聞いたりしているという。漁師の「命を無駄にしたくない」との思いを知り、商品化を決めた。
「四十八漁場」というチェーン名は、米科学誌「Science」に掲載された、現状のペースで漁獲が進めば2048年に天然の魚介類が獲れなくなる──という研究結果にちなんでいるという。「過去にも未利用魚をメニューに加えてきたため、今回も前向きに商品化が進んだ」(マーケティング本部、以下同)と説明する。
過去に商品化したのは岩手県陸前高田市で獲れるハゼ類の深海魚「ドンコ」や、ツブガイの一種「広田ツブ」など。東日本大震災からの復興支援の一環で、煮付けなどの形で提供しているという。
メニューは2種類
豆アジのメニューは、サイズが小さいがゆえの食べやすさを生かし、カレー粉などで味付けした「やみつき豆アジのから揚げ(税別490円)」や、ハイボールとセットにした「アジカラ&ハイボール」(同880円)の2商品。通常とは別の「おすすめメニュー」に載せたり、メニューの裏面に漁師からのメッセージを掲載したりといったPRも進めた。
同社は「常連客を中心に、『四十八漁場』の名前の由来が知られてきている。未利用魚の有効活用に理解があり、注文してくれる顧客が多かったことも売れた要因の一つだ」とみている。
来シーズン以降も、豆アジの販売を続ける
今後、豆アジが獲れる8月下旬までに累計約1トンの唐揚げを売り上げる目標を掲げる。「一過性で終わっては意味がない。来シーズン以降も、豆アジの販売を継続して行っていく」という。
他地域の漁場から依頼があれば、他の未利用魚の商品化に向けて話し合うつもりだという。同社は「今後もトライアンドエラーを繰り返しながら、『命を無駄にしない』という社会貢献を続けていきたい」と話している。
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