EdTechで働き方は変わるのか?:市場の現状と課題(4/4 ページ)
「EdTech」とは「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語である。インターネットなどITの発展により、時間や場所の制約がなくなり、より双方向での学習や個々に合わせた学習が可能となったが、市場としては課題もある。EdTech市場の現状とこれからの発展に向けた課題について考察する。
EdTechで変わる働き方
EdTechによって変わるのは教育産業だけではない。昨今、少子高齢化による労働人口の減少が懸念される中で、「働き方改革」が注目されている。
生産性向上はもちろん、サービスの多様化や顧客ニーズの複雑化が進む世の中において、多様な人材の活躍は不可欠であり、社内教育の重要性は高まっている。EdTechを活用すれば、従来のように対面で一斉に研修プログラムを提供するのでは なく、個人個人にカスタマイズされたプログラムを提供できる。
実際に、多様な人材の育成や、効率化、生産性向上を目的に、企業内教育や研修にもEdTechの活用が進んでいる。経済産業省も、「人づくり革命・生産性革命『新しい経済政策パッケージ』」(2017年12月)の中で、個人の力を引き出す雇用・教育環境の整備を重要課題の1つとしている。
そこでは「AI・ビッグデータ等を用いる新たな教育サービス(EdTech)を活用し、多様なニーズに応じた個人の能力強化・開発を促進するため、実証事業を通じた効果検証に基づくEdTechガイドライン整備等を行う」と言及している。
企業内教育・研修へのEdTech活用事例を挙げると、日本航空では、客室乗務員の訓練・教育プラットフォームに、スタディスト社が提供する「Teacheme Biz」を活用している。タブレット端末を社員一人一人に貸与し、「Teacheme Biz」を導入したことより、社員は場所や時間を問わず最新のマニュアルを確認できるようになった。社員教育の品質が向上しただけでなく、マニュアルや教材作成に要する時間の短縮などにより、間接部門の業務効率化にもつながったという。
日本航空の例のように、社内教育へのEdTechの活用は今後も進むものと想定される。ただし教育の効果を最大化させるためには、従来のプログラムを単にデジタル化しただけでは意味はない。オンライン化によって時間や場所の制約がなくなるといった、メディアの特性を最大限に生かした学習プログラムを作成することが求められる。
オンラインやデジタルを活用した学習プログラムが進化した先には、人工知能(AI)を活用したものも登場するかもしれない。個々の習熟度や興味、得意分野、不得意分野などを分析し、それぞれの人に合わせてカスタマイズした学習プログラムが提供されるようになる。分からないところをAIに質問するとヒントや答えが提示されるなど、対話形式で学べるプログラムも考えられる。近い将来、AIが教師の役割の一部を担うこともあるだろう。
このように今後EdTechの技術が進み、新たな教育プログラムやプラットフォームが広く普及すれば、教育産業を変えるだけでなく、われわれの働き方さえも変える可能性も十分に考えられる。これにより「一人ひとりの意思や能力、そして置かれた個々の事情に応じた、多様で柔軟な働き方(働き方改革実行計画より抜粋)」が後押しされ、ワーク・ライフ・バランスの改善や、労働者が自分に合った働き方を選択して自らキャリアを設計できるようになるだろう。
著者プロフィール
隈部大地(くまべ だいち)
野村総合研究所 コンサルティング事業本部 ICT・メディア産業コンサルティング部 コンサルタント
専門は情報通信分野、金融分野における事業戦略およびマーケティング戦略。
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