EdTechで働き方は変わるのか?:市場の現状と課題(3/4 ページ)
「EdTech」とは「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語である。インターネットなどITの発展により、時間や場所の制約がなくなり、より双方向での学習や個々に合わせた学習が可能となったが、市場としては課題もある。EdTech市場の現状とこれからの発展に向けた課題について考察する。
EdTech市場拡大のためには1人1台情報端末の活用を
「2020年度に向けた文部科学省の教育の情報化ビジョン」(2011年4月)では、すべての学校で1人1台の情報端末を活用した学習の推進が求められている。仮にすべての小学校・中学校・高等学校で情報端末が完備された場合、教員用・児童生徒用のデジタル教科書やデジタル副教材などの教育コンテンツにより、最大で2000億円の市場が創出されると試算されている。
しかし実際には、学校のICT教育環境整備に対する国の指針に強制力がなく、端末の整備が遅れているのが現状である。すでに1人1台の端末が整備されている自治体の割合はわずか約1%(マイクロソフト「教育ICTリサーチ2016」より)にとどまっている一方で、「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議(第5回)」(平成29年3月)によると、タブレットPCの台数が1校あたり10台以下の自治体の割合は、小学校・中学校で8割以上、高校でも8割弱となっており、徐々に台数を増やしてはいるものの、1人1台に向けてはまだまだ整備が遅れていることが分かる。
この問題の最大の原因はコスト面である。機種にもよるが、タブレット端末であれば1台あたり1〜5万円程度の費用がかかる。加えて校内のWi-Fi環境の整備やネットワークの維持、通信にも費用が必要となる。これらコスト面以外にも、セキュリティや、教師側の情報リテラシー向上など、普及に向けて解決すべき課題は多い。1人1台の情報端末の整備に向けては、国と自治体が一体となってこれらの課題を解決していく必要があるだろう。
これらの課題に加え、情報端末を使った学習の効果に対して異議を唱える声もある。今後も各社工夫を凝らしたさまざまなデジタル教材が開発されることが想定されるが、当面は授業の内容や用途に合わせ、紙媒体の教科書・教材とデジタル教材の組み合わせによる学習が主流になると推測される。徐々に、教科書・教材に占めるデジタル教材の割合は増えていくが、全てがデジタルに置き換わるのはしばらく先となるだろう。
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