騒動がなくても阿波踊りの観光客は減少した、根深くて単純な理由:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
徳島の「阿波おどり」をめぐるバトルが世間の注目を集めた。総踊りなどつつがなく行われたが、終わってみれば来場者数は昨年より減少した。「徳島市と踊り手の対立が観光客の足が遠のかせたのでは?」といった指摘が出ているが、筆者の窪田氏はちょっと違う見方をしている。どういうことかというと……。
昭和の価値観から脱せていない
こうなってしまうのは徳島が「観光とは見学である」という昭和の価値観から脱せていないからだ。
観光庁の宿泊旅行統計調査(主に従業員10人以上の施設が対象)で徳島県は延べ宿泊者数が10年以降、全国最下位でなかったのは14年だけだ。
また、その14年でも、県外から徳島を訪れた日本人観光客は684万3000人で、そのうち宿泊した人の割合は10.9%(74万3000人)。四国の他県の割合を見ると、香川が12.8%、愛媛が30.1%、高知が40.8%とダントツに低い。
そう聞くと、徳島をディスっているように聞こえるかもしれないがそうではなく、「もったいない」と言いたいのである。
実は徳島は阿波おどり以外にも、人形浄瑠璃など素晴らしい観光資源に恵まれている。そして、観光マインドも他県に比べて圧倒的に強かった。
あまり知られていないが、「阿波おどり=400年続く伝統芸能」というのは、今でいう観光ブランディング戦略によって生み出されたものだ。「阿波踊りというのは昭和のはじめ、土地の郷土史家が観光振興のためにつけた外向きの名前で、地元の中年以上の人々はいまでも盆踊りと言っている」(読売新聞 1971年8月9日)
徳島城の落成祝いで城主・蜂須賀公が行った無礼講の際の踊りが起源とされているが、「この話はどこの観光起源にもありがちな起源伝説で、実は蜂須賀氏の入封以前からあった行進式の盆踊り」(同紙)で、いまのように盛大になったのは戦後、徳島の涙ぐましいブランディングがあったからだ。
戦後まもない1957年には、宣伝カーや市バスを連ねた37人のキャラバンを京阪神や和歌山に派遣。全国に3000枚のポスターをばらまいて阿波おどりをPRした。結果、東京のキャバレーなどでも阿波おどりイベントが行われるようなブームにつながったのだ。
昭和の初め、四国は「観光未開の地」なんて揶揄(やゆ)されていた。それをひっくり返したのが、商魂たくましい阿波商人たちである。彼らは日本のどこにでもある「行進式の盆踊り」に「乱痴気騒ぎ」をミックスさせて、「阿波おどり」という唯一無二のブランドにまで押し上げたのである。
そういう意味では、阿波おどりとは観光で地域を活性化させたい徳島の人々の強い郷土愛が具現化したものと言ってもいいかもしれない。少なくとも、一部の人間たちがぶら下がって骨までしゃぶるような既得権益ではないはずだ。
徳島新聞社をはじめとする主催者の皆さんにはぜひとも先人の志を思い出していただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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