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「障害者雇用の水増し」で露呈する“法定雇用率制度の限界”「役所の非難」では何も始まらない(2/5 ページ)

複数の中央省庁が、障害者の雇用率を長年水増ししてきた疑いが浮上している。障害者雇用の現場で、一体何が起きているのか。自身も脳性麻痺(まひ)の子を持ち、障害者雇用に詳しい慶應義塾大学の中島隆信教授に、国と地方自治体による水増しの背景と、日本の障害者雇用の問題点を聞いた。

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根拠と目的が不明な法定雇用率

――法定雇用率を上げることが、すでに限界にきていると言えますか。

 法定雇用率をどう考えるかは難しい。問題なのは、算定の仕方と政策目標がよく分からないことだ。障害者の数は、国の最も重要な統計調査である「国勢調査」では調べられていない。政府が毎年国会に提出する「障害者白書」を見ても、縦割りでバラバラに作られた統計しか載っておらず、しかも何年も前の古い数字が使われていることもある。母集団の情報を持っていない点は最悪だ。

――実際、法定雇用率はどのように算定されているのですか。

 厚生労働省は障害者雇用率の基準を、「対象障害者である常用労働者の数+失業している対象障害者の数」を「常用労働者数+失業者数」で割るという算式で設定している(編集部注:「常用労働者」とは(1)期間を定めずに雇われている者、(2) 1か月以上の期間を定めて雇われている者、のいずれかに該当する労働者のこと)。

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障害者雇用率の算式(厚生労働省のWebサイトより)

 この算式の意味は、障害者の失業率を日本全体の失業率に一致させるように法定雇用率が定められているということだ。しかし、失業率から考える政策目標はそもそもおかしい。

 日本の失業率は、月末の1週間に職探しをした人の数をもとに計算されている。日本には精神障害のある20〜64歳の人は約200万人いるとされているが、雇用されている人はわずか2万人ほどだ。働いていない人は精神科や心療内科に入院しているか、施設に通うか、あるいは在宅で、十分な職探しができる状態ではない。だが、厚労省の算式によれば、職探しをしない障害者が増えれば失業率は下がるので、法定雇用率を低めに設定することができる。これは政策目標として不適切だろう。

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