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「オリンピックのため」が合言葉のサマータイム、代償は精神疾患と心臓病?:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/5 ページ)
東京五輪の暑さ対策として、サマータイム導入が検討されることになった。欧州では存廃が検討されているのに、「オリンピックのため」を合言葉に議論を進めようとしている。生活と健康に与える影響とは……?
体内時計と生活リズムに生じる「ズレ」
私たち人間は環境が変わると、その環境に適応するために莫大なエネルギーを注ぎ込みます。例えば、新しいチームや新しい職場に異動すると、新しい人間関係、新しい仕事、新しい慣習に適応することを強いられてストレスを感じた経験はあると思います。
サマータイムでは1時間、もしくは2時間生活時間が変わるので、それに慣れるまでに心身に相当の負担がかかることになるのです。
私たちがヒトという霊長類の動物である以上、「日が暮れれば寝る」のは至極当たり前で、私たちの体は「夜は寝るためにある」という前提でプログラムされています。いわゆる「体内時計」と呼ばれるものです。
体内時計は24時間。「夜になると眠くなる」こと以外に、次のような変化が体内で生じています。
- 朝がくると血圧と心拍数が上がり始める
- 昼には血中のヘモグロビン濃度が最も高まる
- 夕方には体温が上がる
- 夜には尿の排出量が多くなる
- 真夜中には免疫を担うヘルパーT細胞の数が最大になり、成長ホルモンがさかんに分泌される
人間のX染色体の一定領域に存在する「時計遺伝子」の司令に基づき、体は本人の意思とは関係なくリズムを刻んでいるのです。
ところが、生活のリズムと体内の時計がうまく同期しなくなると、さまざまな不都合が生じることが分かってきました。がんや神経変性疾患、代謝疾患などのリスクです。
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