ショボい水族館を“全国区”にした「女房役」を駆り立てる危機感:ショボいけど、勝てます。 竹島水族館のアットホーム経営論(5/5 ページ)
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。
自分ができることは自分でやる。調べて分かることは他人に聞かない
小林館長と戸舘副館長が率いる竹島水族館は常に和気あいあいとしているが、「なれあい」や「ゆるさ」は感じられない。担当の生物や水槽を複数の飼育員が担当するチーム制の飼育体制ではなく、それぞれを1人の飼育員が責任を持って受け持つ「単独性多担当持ち」体制であり、各自の裁量が大きい分だけプレッシャーも増す。新人飼育員にしてカピバラの飼育とショーをほぼ1人で担当した塚本さんが一時は退職を検討するほど追い込まれた仕組みだ(前回記事を参照)。
「自分ができることは自分でやる、調べて分かることは他人に聞かない、というのが僕たちの方針です。上の立場にいる小林さんや僕が世話をしてしまうと、(飼育員)それぞれの色がなくなってしまいます」
完全な放任ではもちろんない。同じ水槽に入れても問題のない魚種の組み合わせやエサをあまり食べない魚の扱い方など、経験を積まなければ分からないことは教える。しかし、後輩たちを個性的で実力のある「雑芸員」に育てるためには甘やかしてはいけないのだ。
厳格な発言が目立つ戸舘さんだが、その根底には水族館という空間への尽きぬ興味と魚への愛情がある。
「小学生のときから、誰も見ていない水槽と客の流れを観察して、どうしてその水槽は客を集められないのかを考えているような子でした。僕は昔から生意気なんです(笑)。自分自身の飼育と展示のスキルも上げていきたいと思っています。雑務は集中すれば短時間で終わりますが、飼育と展示はどれだけでも時間をかけることができるのが魅力です」
静岡県に自宅がある戸舘さん。普段は車で通勤をしているが、水族館近くで会食があったときなどは夜警を兼ねて水族館で泊まることがある。事務所ではなく、館内のソファで横になるのだ。真っ暗だが全く怖くはない。夜になると活発に動き出す魚もあり、彼らに囲まれて一夜を過ごすのは至福だと戸舘さんはにこやかに語る。
はっきり言って異常だ。しかし、この異常な愛情が少人数のスタッフで年間40万人もの客を満足させる竹島水族館を下支えしている。
著者プロフィール
大宮冬洋(おおみや とうよう)
1976年埼玉県所沢市生まれ、東京都東村山市育ち。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。自主企画のフリーペーパー『蒲郡偏愛地図』を年1回発行しつつ、8万人の人口が徐々に減っている黄昏の町での生活を満喫中。月に10日間ほどは門前仲町に滞在し、東京原住民カルチャーを体験しつつ取材活動を行っている。読者との交流飲み会「スナック大宮」を、東京・愛知・大阪などで月2回ペースで開催している(2018年7月現在で通算100回)。著書に、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる〜晩婚時代の幸せのつかみ方〜』(講談社+α新書)などがある。 公式Webサイト https://omiyatoyo.com
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