「カツオは将来、社長になる」 サザエさん好きの慶大名誉教授と考える、磯野家の未来:「波平と出川哲朗さんは同い年」(4/5 ページ)
かつてのベストセラー「サザエさん」のトリビア本「磯野家の謎」の続編が四半世紀ぶりに出版された。著者は慶應義塾大学 名誉教授の岩松研吉郎さん(74)らのグループ。数十年にわたって同作品を愛し続ける岩松さんに、書籍を通じて現代人に伝えたいことを語ってもらった。
「サザエさん」の世界と現代は、何が違うのか
――さて、今回の“サザエさん本”のテーマでもある「当時と現代の違い」についても聞かせてください。27歳の私(記者)は、作品の舞台である終戦直後から1970年代の日本については、資料や教科書から得た知識しかありません。岩松先生は、当時と現在の日本は、どんな点が異なっているとお考えですか。
岩松先生: 敗戦からオイルショックまでの復興期・高度経済成長期の日本には、「もっと豊かになれる」という活気がありました。個々人の結び付きも強く、ご近所づきあいがあり、家に鍵を掛けずに遊びにいくことも普通でした。いまは人々のつながりがバラバラになり、格差が広がっていると感じます。
外食は特別な機会だけ
食事などの消費文化も大きく変わりました。「サザエさん」の時代は、食事は自分の家で作って食べるのが当たり前。外で食べるのは特別な機会に限られていました。
作品中では、一家がお茶の間でちゃぶ台を囲んで食事する様子がおなじみで、外食はクリスマスや年末など、ごく一部の場面のみです。
外食のシーンでは、近所のおばあさんから「お出掛けですか?」と聞かれ、カツオ・ワカメが「清水の舞台から飛び降りるつもりで(思い切って)ホテルで食事をしてきます!」などと答える一コマもあります。当時は外食がそれほど珍しいことだったのです。
――当時は外食産業が発展していなかったことも大きいかと思いますが、これ以外に外食が特別な機会に限られていた背景は何があったのでしょうか?
岩松先生: 戦前から続く「女性は家を守り、家事をする」という文化が色濃く残っていたからです。磯野家が住んでいる設定の、東京・世田谷区などの都会の住宅地では専業主婦が当たり前で、働いている女性はほとんどいませんでした。
磯野家の玄関に鍵が掛かっておらず、カツオやワカメの友達が気軽に遊びに来るのは、「家に主婦(サザエやフネ)がいつもいる」という共通認識があったからなのです。
「御用聞き」が来ていた
――当時は小売業界も発展途上でした。サザエさんの世界にはコンビニなどもなさそうですが、磯野家はどこで買い物をしているのでしょうか。
岩松先生: 当時は酒屋、八百屋、魚屋などの個人商店がたくさんあり、そこで買い物をしていました。店員が各家庭を回って欲しいものを聞き、頼まれた商品を届ける「御用聞き」という文化もありました。
御用聞きは磯野家にも、よく注文を取りに来ています。ですが、女性が必ず家にいることを前提としたビジネスなので、いまの世界では女性の社会進出とともに廃れていきました。
また当時は、悪質な訪問販売「押し売り」も横行していました。ゴムひも、ほうき、スリッパといったガラクタを10円台で売りつける商法で、前科のあるならず者などが行っていました。作品中には、夏休みの終わりに磯野家にやってきた押し売りがカツオとワカメに、毎日の天気を記録する宿題を1日当たり2円で写させるシーンもあります。
関連記事
- 「サザエさん」スポンサー、Amazonなど3社に決定か
「サザエさん」の次期スポンサーが、アマゾンジャパンなど3社に決まったと一部が報道。入札によって10社近くの企業から選ばれたという。美容外科「高須クリニック」の高須克弥院長などは落選したと明らかにした。 - 「広辞苑」10年ぶり改訂 編集者が語る“言葉選び”の裏話
2018年1月に、国民的辞書「広辞苑」の第7版が発売される。「アプリ」「クラウド」「ビットコイン」などのIT用語や、「萌え」「クールビズ」など過去に掲載を見送った言葉が新たに追加されるという。広辞苑の編集者は、どのような方針や考え方で項目を選んでいるのだろうか。 - 編集者に聞く「元祖・田中角栄本」の秘話
近年、田中角栄元首相を題材にした書籍が大ブームとなっている。ブームのきっかけとなったのは、宝島社が発行する『田中角栄という生き方』だ。出版業界が田中角栄に再注目する要因となった同書は、どのような経緯で世に出たのだろうか。編集を手掛けた欠端大林氏に話を聞いた。 - 「キンドル読み放題」は書店を街から消すのか
このところ、出版業界に大きな動きが相次いでいる――。アマゾンジャパンが電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited」(キンドルアンリミテッド)をスタートさせた。書籍の市場は手にとって1冊ずつ購入するという形から、電子書籍の定額読み放題に一気に流れてしまうのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.