日本人が「ある程度の暴力は必要」と考える、根本的な原因:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
全国で「暴力指導」が次々と明るみとなっている。会社、学校、クラブ、家など、あらゆるところで暴力指導が日常的に行われているわけだが、なぜ日本人は「ある程度の暴力は必要」と考えるのか。その思想には根深い問題があって……。
「暴力は子どもを正しく導くための愛のムチ」思想
そんな「暴力=教育の最終手段」という思想は、当時ヒットしたドラマや映画にもよくあらわれている。76年にヒットした、松田優作主演の映画『暴力教室』は、元プロボクサーの教師が、体育会の生徒たちに妹を殺されて復讐するというバイレオンス活劇だ。82年には拳銃所持を許された教師が、不良生徒をとっちめていく漫画『ビックマグナム黒岩先生』が人気となり、85年には横山やすし主演で映画化された。そして、84年には「俺は今からお前たちを殴る」の名セリフで知られる伝説のスポ根ドラマ『スクール☆ウォーズ』が放映される。これらの作品に共通するのは、「暴力は子どもを正しく導くための愛のムチになりえる」という思想であることは言うまでもない。
こういう暴力容認の大きな流れができると、最終手段どころか日常的に暴力指導を実践される方たちもあらわれていく。中でも有名なのが、いわゆる問題児を預かって、ヨットで厳しく鍛えて更生させる「戸塚ヨットスクール」で一躍時の人となった戸塚宏氏だ。
訓練中に少年が亡くなって、戸塚氏らが監禁・傷害致死の容疑で逮捕されると、日本中は「戸塚氏は教育者か、犯罪者か」というテーマで大激論が繰り広げられる。ただ、その議論のベースとなる感覚も、現代と比べるとかなり違っていたことが、当時のマスコミ報道からも分かる。
戸塚氏の逮捕後、竹刀や棒を押収されたスクールでの訓練風景を取材したマスコミは、さも当たり前のような感じで、このようなことをサラっと言ってのけている。
「時折、訓練生の背中や腹にとぶコーチの平手やげんこつも体罰といえるようなものではなかった」(日本経済新聞 1983年7月4日)
速見コーチが女子選手をビンダする衝撃映像にドン引きした人も多いかもしれないが、ほんの30年前の日本人はああゆう光景を見ても、「いやあ教育熱心なコーチだね」くらいにしか思わなかったのである。
では、日本人の大半がとらわれている「指導・教育現場にある程度の暴力は必要」という思想がすべてこの時代に生まれたのかというと、そうとは言い難い。
50〜60年代はもちろん、戦中、戦前、江戸時代やそれ以前にも、子どもや弱い立場の人間への暴力、体罰というものは山ほど確認されているからだ。
関連記事
- マスコミの「感動をありがとう!」が、実はとってもヤバい理由
「感動をありがとう!」の大合唱が日本中に溢れている。『24時間テレビ』で、みやぞんのトライアスロンに心が打たれた人も多いだろう。甲子園で、1人のエースが881球を投げたことに勇気をもらった人もたくさんいるだろう。こうしたムードに対して、筆者の窪田氏は違和感を覚えるという。どういうことかというと……。 - 剛力彩芽が叩かれる背景に、日本人の国民性
タレントの剛力彩芽さんが、ネット上で壮絶なリンチにあってしまった。交際宣言したスタートトゥディの前澤友作社長と同じタイミングで、ロシアW杯を観戦した写真をInstagramにあげたところ、批判が殺到したのだ。それにしても、なぜこのような「いじめ」が後を絶たないのか。 - 登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。 - 大東建託が「ブラック企業」と呼ばれそうな、これだけの理由
電通、NHK、ヤマト運輸など「ブラック企業」のそしりを受ける大企業が後を絶たないが、ここにきて誰もが名を知る有名企業がその一群に加わるかもしれない。賃貸住宅最大手の「大東建託」だ。なぜこの会社がブラック企業の仲間入りするかもしれないかというと……。 - 電通や東芝といった大企業が、「軍隊化」してしまうワケ
電通の女性新入社員が「過労自殺」したことを受け、「オレの時代はもっと大変だった。いまの若い者は我慢が足りない」と思った人もいるだろう。上の世代にとっては“常識”かもしれないが、なぜそのような考え方をしてしまうのか。 - 「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界
訪日観光客の間で「着物」がブームとなっている。売り上げが低迷している着物業界にとっては千載一遇かもしれないが、浮かれていられない「不都合な真実」があるのではないだろうか。それは……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.