ガンダムの宇宙世紀でインフレは起きたのか?:【新連載】元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(1/5 ページ)
来年にアニメ放送40周年を迎え、今なお人気が衰えない「機動戦士ガンダム」。こうしたSFの世界において政治の駆け引きが描かれることはよくあるが、その世界の経済に関する視点はあまり例を見ない。新連載「ガンダムの経済学」では、日銀出身のエコノミストがさまざまな側面からガンダムの世界の経済を大胆に分析する。
SFや特撮の世界で経済はどのように動いているのか。大規模な戦争が描かれ、ときに政治の駆け引きが繰り広げられる世界ではあるが、経済についての描写は思いのほか少ない。
すぐに思い出せる範囲だと、「銀河英雄伝説」(OVA版)において、銀河帝国と自由惑星同盟の間にあるフェザーン自治領の策動もあり、経済に比較的スポットが当たっていたぐらいである。他の作品、例えば、2019年にアニメ放送40周年を迎える「機動戦士ガンダム」の世界はどのような経済だったのだろうか。それをさまざまな側面から分析するのがこの連載コラムのテーマである。
なぜ、数多あるSF・特撮の中で「機動戦士ガンダム」を取り上げるのか? それは筆者がガンダムのテレビ放送開始と同じ1979年に生まれて以来、ガンダムとともに育ってきたことと無関係ではない。気付いたときには家にガンプラがあり、ガチャポンやカードダスになけなしの小遣いをつぎ込んでいた。日本アニメ映画史上の最高傑作と呼び声高い「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」が小学生時代に人気を博し、それに合わせたタイアップ戦略で記憶が補強されている部分もある。ファミリーコンピュータ用のウォー・シミュレーションゲームである「SDガンダムワールド ガチャポン戦士」の対戦も懐かしい。
ガンダムシリーズの中でも、富野由悠季氏や福井晴敏氏の原作に代表される宇宙世紀を舞台にした作品は、魅力的なキャラクターや、次々と実戦投入されるモビルスーツ(MS)、人間同士の戦争という悲劇の中で人類の革新の可能性、ニュータイプ論を織り込むという重厚な内容が高く評価され、世代を超えて愛されている。腐った民主主義と天才による独裁の対立など、政治や組織を語ることができて大人も楽しめる作品が多い。
ただ、惜しむらくは経済という視点では物足りなさを感じてしまう。当連載では、ガンダムの経済を経済学や歴史などを用いて解釈し、想像の翼を広げることを試みる。ネタとして楽しむ、経済・金融リテラシーを得る、二次創作の参考にするなど、自由な読み方をしていただければ幸甚である。
ガンダムの世界とは?
ガンダムの経済を語る前に、まず「機動戦士ガンダム」の舞台を確認しておこう。宇宙世紀0079、地球連邦からの独立を宣言したスペースコロニー国家・ジオン公国との間で戦争が勃発。ザクなどのMSと呼ばれる巨大人型兵器の実戦投入により、開戦当初はジオン軍が国力で勝る地球連邦軍を圧倒した。ジオン軍が行った巨大質量のスペースコロニーを地上に落下させる「コロニー落とし」などにより開戦後1カ月あまりで人類の半数が死亡している。
地球連邦軍は宇宙艦隊に大打撃を受けており、ジオン公国軍も戦力の不足(国力は地球連邦軍の30分の1以下)から互いに決め手を欠き、戦争は膠着(こうちゃく)状態に突入。戦争に巻き込まれる形で地球連邦軍の最新鋭MS「ガンダム」のパイロットになったアムロの活躍などにより、終戦を迎える。この戦争は開戦から1年で終結したため、「一年戦争」と呼ばれる。
その後も、地球連邦軍の内部分裂や、ジオンの残存勢力を糾合したネオ・ジオンとの抗争が散発する。全人類を二分した戦争が続いているのではなく、地球連邦軍が限定された対立勢力の抵抗を収められずにいるという構図だ。この間、MSを始めとする兵器の性能向上は目を見張るものがあり、次々と新型機が投入されている。2018年11月公開予定の「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」など、同じ宇宙世紀という時間軸を舞台にした作品が、現在も作り続けられているのがガンダムの魅力だ。
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