ガンダムの宇宙世紀でインフレは起きたのか?:【新連載】元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(3/5 ページ)
来年にアニメ放送40周年を迎え、今なお人気が衰えない「機動戦士ガンダム」。こうしたSFの世界において政治の駆け引きが描かれることはよくあるが、その世界の経済に関する視点はあまり例を見ない。新連載「ガンダムの経済学」では、日銀出身のエコノミストがさまざまな側面からガンダムの世界の経済を大胆に分析する。
相対的な需要の減少
まずは実体経済面の考察からだ。
ジオン公国のコロニー落とし作戦では、コロニー内部に生存者がいると、内部からコロニーの軌道を変更されるなどの妨害を恐れたため、反ジオン勢力への見せしめも兼ねてG3という毒ガスでコロニー住民を全滅させてから行われた。
他にも破壊されたコロニーはあるが、食料生産が主体の酪農・観光コロニーや工業製品や軍需物資の生産に必要な工業コロニー、資源衛星等は人口が多い都市型コロニーよりも戦禍を免れたと考えられる。食料・工業生産の確保は、戦中だけではなく、戦後においても重要である。敵対勢力下にあっても宇宙に孤立したコロニーで、反抗する住民も少ないのであれば、いたずらに破壊を優先するよりも、生産力確保を目的に接収するなどして支配下に置いたり、条約を結んで供給基地化したりすることが理に適っている。人的被害に比べると生産設備・資源への被害は抑制されたため、深刻な供給不足には陥らなかったのだろう。
また、コロニー落としは地上に甚大な被害を与えたが、地球はコロニーがなければ立ちいかない需要超過の経済であり、その場合、地球の人口減少は供給以上に需要が減ることを意味するので、インフレ抑制につながる。
「機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096」(第16話「サイド共栄圏」)でフル・フロンタルが指摘しているが、地球はコロニーがなければ人口の維持すら難しい一方で、コロニーは地球がなくても自活できる。そもそも、増えすぎた人口を宇宙に棄民するためにコロニーが作られたのだ。供給以上に需要が減少すれば、物価の上昇圧力は緩和される。少なくとも、地球の人口減少は食料需給の点からはインフレ抑制につながった可能性が高い。
限定的な労働力のシフト
高度な兵器が支配する戦場では専門性のない兵士の活躍は見込めない。現代でも戦闘機のパイロットはエリートだが、MSパイロットに要求されるスキルはそれ以上だろう。
「機動戦士Zガンダム」からの一連の流れをみると、アストナージなどの整備士や技術者にもそれなりの敬意が払われている。兵器・軍需物資が高度化・専門化すると、畑違いの者は役に立たない。それに、宇宙に不慣れな兵士の宇宙酔い対策から始めたのではあまりに非効率だ。地球連邦軍では徴兵制は採用されず、民間部門から軍事部門への労働力のシフトは限定的だっただろう。
一方、宇宙育ちで兵力差が深刻なジオン軍は徴兵制を採用するメリットは地球連邦軍よりもあったと思われる。量産型ゲルググの性能が発揮できなかったのは、学徒動員の兵士が乗ったためという説はあり得そうな話である。
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