「生産性」に潜む“排除”の論理 新潮45事件の薄気味悪さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/6 ページ)
『新潮45』に掲載された杉田水脈衆議院議員のLGBTに関する寄稿から始まった炎上事件は、同誌の休刊が発表される事態に。杉田氏の主張にある「生産性」は、社会に潜んでいる“ある価値観”を表面化させた。それは……
これらの主張は「論文」ではなく「エッセー」
さて、本題に入る前に「お断り」です。出版社も報道も『新潮45』に掲載されている主張を「論文」としていますが、私はあえて「エッセー」とします。
理由は実にシンプル。いずれの「エッセー」もあきれるほど事実誤認が多く、「論理的な手法で書き記した文章=論文」には程遠いからです。あまりに乱暴かつ稚拙すぎて、開いた口がふさがりません。とりわけ小川氏のエッセーは、小川氏が「LGBTを語る上で基本中の基本」すら理解していないことを露呈したものでした。
小川氏は「極端な希少種を除けば、性には、生物学的にXXの雌かXYの雄しかない」と主張していますが、性染色体にはXXYや、XXXYというケースが相当数存在します。特に「XXY」はクラインフェルター症候群と呼ばれ、男性600人に1人の割合で発生するとされ(2000人に1人という説もある)、気付かずに生活している場合もあります。「極端な希少種(by 小川氏)」ではない。
「生物学的に〜」というフレーズには有無も言わせぬ絶対的なイメージがありますが、染色体は実にきまぐれで、簡単に男女の二分法で分けられない多様性が存在するのです。
小川氏の「勘違い」はそれだけにとどまりません。氏は、LGBTを「性的嗜好」と表現し、「LGBTという概念について私は詳細を知らないし、ばからしくて詳細など知るつもりもない」としていますが、「性的嗜好」の意味を分かっているのでしょうか。
LGBTは「性的嗜好」ではなく「性的指向」。どちらも「セイテキシコウ」と読み方は同じですが、意味は全く違います。
「性的嗜好」が人間の性的行動において、対象や目的について、その人固有の特徴ある方向性や様式であるのに対し、「性的指向」は、いずれの性別を恋愛や性愛の対象とするかを意味し、無意識に形成されます。具体的には、「異性愛」「同性愛」「両性愛」「無性愛」「非性愛」「汎性愛」などです(その他もあり)。
LGBTではなく、SOGI(Sexual Orientation、Gender Identity)という言葉が、近年注目されているのもこのためです。
小川氏は「SOGIなんてばからしくて知るつもりもない」と言うかもしれませんが、少なくとも論理が崩壊していることは「知っておいたほうがいい」。ましてやLGBTを自らの造語である「SMAG=サド(S)とマゾ(M)とお尻フェチ(Ass fetish)と痴漢(groper)」という性的嗜好と同列に扱うなどもっての外。
性的嗜好は「性的な興奮」であり、性的指向は「恋愛や性愛の対象」であることも知らないで(もしくは無視して)書いた文章に、「論文」などという学術用語は似合いません。
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