「生産性」に潜む“排除”の論理 新潮45事件の薄気味悪さ:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/6 ページ)
『新潮45』に掲載された杉田水脈衆議院議員のLGBTに関する寄稿から始まった炎上事件は、同誌の休刊が発表される事態に。杉田氏の主張にある「生産性」は、社会に潜んでいる“ある価値観”を表面化させた。それは……
『新潮45』大炎上から休刊に至る経緯
最初に、今回の事件を時系列で振り返っておきましょう。
1.『新潮45』8月号で、杉田氏が寄稿したエッセーが炎上
「少子化対策のためにお金を使うという大義名分があります。しかし、LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」(本文より抜粋)
「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません。私は日本をそうした社会にしたくありません」(同)と持論を展開した。
2.海外メディアのCNNやBCC、アルジャジーラなども、杉田氏のエッセーを「差別的な発言」と報道
一方、自民党は何らおとがめなし。二階俊博幹事長に至っては「こういうことはそんなに大げさに騒がないほうがいいんです。この程度の発言があったからといって、帰国してからどうだってそんな話じゃありません」と訪問先の韓国で記者団に語り、火に油をそそぐことに。
3.いったん沈静化したかに見えた「杉田LGBT発言」が、『新潮45』10月号で再び炎上
特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」で、真正保守の論客である教育研究者の藤岡信勝氏や、文芸評論家の小川栄太郎氏らのエッセーを掲載した。
小川氏は「LGBTが生きづらいなら痴漢も生きづらい」と主張し、「彼らの触る権利を社会は保障すべきでないのか」などとトンチンカンな持論を展開。再び大炎上することになった。
4.新潮社と縁のある作家などが批判ツイートを連発、新潮社の出版部文芸の公式Twitterアカウントも、同誌に対する読者や識者の批判的な意見を立て続けにリツイート
新潮文庫や新潮文庫nexのアカウントも同調し、「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事」という同社創立者の佐藤義亮氏の言葉もツイートされ、瞬く間に拡散された。
5.批判が一向に収まらない中、発行元の新潮社が佐藤隆信社長名でコメントを発表
「言論の自由、表現の自由、意見の多様性、編集権の独立の重要性などを十分に認識し、尊重してきた」と自社の立場を説明した上で、「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」の「ある部分」に問題があったことを認め、「今後とも、差別的な表現には十分に配慮する所存です」とした。ちなみに「ある部分」が何を指すかは明らかにしていない。
6.新潮社が公式HPで休刊を発表
部数が低迷し試行錯誤を続ける中で「編集上の無理が生じ、企画の厳密な吟味や原稿チェックがおろそかになっていたことは否めない」と説明。「会社として十分な編集体制を整備しないまま刊行を続けてきたことに対して、深い反省の思いを込めて、休刊を決断した」「限りなく廃刊に近い休刊」としている。
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