V60 ベストボルボの誕生:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
ボルボは商品ラインアップの中核を担う60シリーズをモデルチェンジして発表した。新型V60は、結論を言えば現時点でのベスト・ボルボだと思う。その理由を解説したい。
9月25日、ボルボはラインアップの中核を担う60シリーズをモデルチェンジして発表した。
まずはマトリックスを参照いただきたい。
ボルボの商品展開はかなりロジカルで、フラッグシップの90シリーズ、メインラインの60シリーズ、そして普及モデルの40シリーズの3つのクラスを持ち、それぞれにセダン、ワゴン、SUVを用意する。原則はそれだけだ。
Cセグメントの40シリーズにはセダンはない。相応しいモデルにはそれぞれ車高を上げたクロスカントリーが用意される。例えば、V90にはありで、S90にはなし。XC90は最初から車高が高いからなし。60シリーズの場合、やがてV60には確実に追加されるはずで、S60は微妙だが、先代はありだった。V40はあり。
モジュラー設計で生き残ったボルボ
ボルボの場合、フォード傘下からの離脱以降、使えなくなったフォードグループのエンジニアリング資産の代わりに、人も資金もない中で必死に、独自フルラインアップの再構築をやってきたため、とにもかくにもラインアップをロジカルに構築するしかなかった。
60シリーズと90シリーズはSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)。40シリーズはCMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャ)と全ラインアップを2つのシャシーだけでカバーする。
パワートレインの方もドライブEと名付けたモジュラー設計のパワートレインで全てに入れ替えた。かつて使っていたユニットはもうフォードが売ってくれないからだ。
シャシー同様、カネと人がいないからパワートレインの構成もロジカルで、順列組み合わせのマトリックスになっている。ディーゼルとガソリンの基本に、パワーが必要なモデルにはターボ、スーパーチャージャーを組み合わせ設定しつつ、マイルドハイブリッドやPHVなどのモーター付きユニットも選択肢に組み込んでCAFE(企業平均燃費)やZEV(ゼロエミッションビークル)などの各国環境規制への備えとする。
全てのエンジンの25%が共通部品に、50%が類似部品になる。エンジンバリエーションごとに新造される部品は残る25%だけだ。
こういう全体構成に対するビジョンがあればこそ、小さな会社でありながら全ラインアップを新たに作り直すことができた。
こうした戦略が予定通りうまくいっているかは、販売台数を見れば明らかで、2015年に創業以来初の50万台超えを記録しただけでなく、毎年記録を更新。しかも営業利益でも過去最高を塗り替えるといった具合で絶好調なのだ。18年1〜8月の累計も前年同期を14.5ポイント上回っている。
売れたか売れないかだけでなく、クルマの評価そのものでも「欧州カーオブザイヤー」と「日本カーオブザイヤー」を受賞し、世界各国で250もの賞を獲得した。この受賞ラッシュが示す通り、これまで賞とあまり縁がなかったボルボが手のひら返しで高い評価を受けている。地味なボルボがこういう評価を得るようになったのは、フォードにハシゴを外された後、「このままでは死ぬ」という必死の思いでラインアップの再構築という大事業に挑んだからこそであり、目前に迫った窮地に対して、そこから手持ちのリソースでできることを見定め、選択と集中を徹底的にやり抜いた結果である。
関連記事
- XC40「ボルボよお前もか」と思った日
ボルボからコンパクトSUV、XC40が登場した。何と言っても注目すべきなのは、ボルボの歴史上初めて「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞したクルマなのである。実際に乗ってみてその出来栄えを試したところ……。 - え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。 - あなたはカローラの劇的な変貌を信じるか?
カローラ・ハッチバックのプロトタイプ試乗会のために富士スピードウェイの東コースへ訪れた。そこで目の当たりにしたのはカローラの劇的な変貌だった。 - 名車の引退を惜しむ スズキ・ジムニー
スズキ・ジムニーが引退した。直接の理由は道路運送車両法改正による「横滑り防止装置」の義務付けだ。現代の名車としてのジムニーを多くの人に知ってもらいたいと今回筆をとった。 - 2017年 試乗して唸った日本のクルマ
2017年も数多くのクルマがデビューしたが、全体を振り返ると日本車の当たり年だったのではないかと思う。改めて筆者が特に心に残ったクルマ4台のクルマをデビュー順に振り返ってみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.