それでも貴乃花親方を叩く人たちをつくりだす「事大主義」という病:スピン経済の歩き方(5/6 ページ)
貴乃花親方が「電撃引退」を発表した。この報道を受けて、あるジャーナリストはこのように解説した。 「まあ、自尊心の強い人ですからね。一兵卒にはなったけれど結果が出なかった。それが我慢できなかったのでしょう」。なぜこのジャーナリストは「印象操作」とも言えるようなコメントをしたのか。その背景には、日本人の根深い問題がからんでいて……。
ブラック企業にも「事大主義」
なぜ筆者が今回の貴乃花バッシングを「事大主義」で読み解こうとするのかというと、実は少し前に、似たような問題を間近で見ており、そこにコテコテの「事大主義」を感じたからだ。
あまり詳しくはお話できないが、ある企業の従業員がSNSで自社のブラックぶりを告発して、一部メディアも飛びついたことがある。
その後、会社と従業員は互いに代理人を立てて和解するかという段階にきたが、最後の最後にもめてしまった。会社側がブラックぶりを告発した報道をすべて打ち消し、事実無根のデタラメだったとメディア側にちゃんと訂正を求めることを条件に出してきたのだ。
筆者も人づでに経営者から、従業員をどうやって説得して、自分の告発がデタラメだったかと言わせればいいのか相談を受けた。だが、一度世に出ている情報を打ち消すことが難しいことや、告発者の声を封じると、新たなトラブルになることを説明したが、その経営者の方はキョトンとしてこう言った。
「ウチと和解するんだから、ウチが正しいと言わせるのは当然でしょ。危機管理的にも、彼が間違っていたと認めさせないと」
親方が協会幹部から、告発はうそでしたと認めるよう迫られたと明かした時、協会や相撲ジャーナリストは「そんなことはあるわけがない」と否定したが、組織防衛の観点からすれば特に驚くような話ではないのだ。
なぜこうなってしまうのかというと、“大”に屈することは、“大”のすべてを肯定すべし、という「事大主義」が日本社会にまん延しているからだ。
戦時中の読み物などに登場する「一兵卒」を見れば、この言葉には「上官の命令に対して何も疑問を抱かずに死んでいく最下層の兵隊」という意味があるのは明白だ。貴乃花親方は深く考えず、この言葉を使ってしまったかもしれないが、「一兵卒になる」ということは、「全ての理不尽を受け入れて“大”につかえる」という宣言なのだ。
だが、貴乃花親方は自分の信念を曲げなかった。この「裏切り」も相撲協会という“大”につかえる人々からすれば、許せないところなのだろう。
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