交通事故で誰も死なない社会に:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
1970年に1万6765人と過去最高を記録した交通事故死者数は、2017年には3694人と激減した。これは自動車の安全技術と医療技術の進歩によるところが大きい。しかし、本当は死亡者ゼロこそが理想なのである。今なお自動車メーカー各社はそのためにさまざまな技術を開発し、数多くの安全システムをクルマに搭載しているのだ。
誰も死なない社会のために
以上は、取材に基づいたフィクションである。事故以降のすべてが理想的に回ればこれが可能になる。
1970年に1万6765人と過去最高を記録した交通事故死者数は、2017年には3694人と激減した。要因はさまざまあるが、自動車の安全技術と医療技術の進歩によるところは大きい。しかし、減ったからめでたしめでたしとは言えない。本当は死亡者ゼロこそが理想なのだ。各自動車メーカーはそのためにさまざまな技術を開発してきた。それは上述のストーリーの中でクルマに搭載された数多くの安全システムを思い起こしてもらえば分かるだろう。
例に挙げたクラウンは最も進んだシステムを持つ1台だ。しかしそれはクラウンだけに限った話ではない。同様のシステムはトヨタで7車種、レクサスで11車種、ホンダで11車種に導入されている。現在全車種への搭載に向けて、各社は急ピッチで拡充を進めている。数年後には多くの車両にこの「D-Call Net」が導入されるだろう。またHELPNET以外にもボッシュサービスソリューションズとプレミア・エイドの2社のサービスプロバイダが設立されている。
どの社のシステムでも共通だが、このシステムのポイントは、現場に医師が急行してその場で救命措置を最速で開始できるところにある。通常の救急車では怪我人を病院に搬送するまでできる処置が限られてしまう。消防署には救急救命士はいても医師は常駐していないのだ。そして、初動の早さによって救える命は増える。予測としては20〜30%増えるであろうとされている。
今回の話をフィクション仕立てで書いたのには理由がある。実は条件分岐が細かく、それを時系列に組み込んでいったら、とてもではないが話が分からない。だから最も理想的なケースを一本道で書かないと伝わらないと思ったのだ。
いくつか挙げてみよう。出動手段はドクターヘリだけではなく、ドクターカーもある。状況によってこれらは使い分けられる。
ヘリは最短距離を直線的に時速200キロで飛べるため、速さでメリットがある。もちろん着陸場所が遠ければ、そのメリットは薄まるが、例えば搬送先の病院が何かの都合で急に変更になると、クルマはどうしても時間がかかってしまう。そこはヘリが有利だ。
一方でヘリは有視界飛行のため日没後は飛べない。さらに機内スペースが極めて狭く、一度飛んでしまったらもうほとんど処置はできない。だから一概にヘリが良いとは言えないが、それでもヘリではないと間に合わないケースがあるのは間違いない。
「D-Call Net」は上に挙げた自動通報以外に、車両やナビに設けられた手動ボタンで作動させることもできる。例えば、運転者に怪我がない対歩行者や対自転車の重篤事故のようなケースでは、ドライバーが操作して連絡できる意味は大きい。
関連記事
- 世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革
トヨタがレース活動を通じて働き方改革を推進する理由。トヨタGRカンパニーのプレジデントである友山茂樹副社長へのインタビュー取材によって、なぜそんな大胆な改革が可能なのかを究明した。 - 変化と不変の両立に挑んだクラウン
トヨタのクラウンがフルモデルチェンジした。すでにクローズドコース試乗で高負荷域の「クラウン離れした」仕上がりを体験し、その激変ぶりをインプレッションに書いたが、今回改めて一般公道での試乗会が開催された。クラウンのクルマとしての真価はいかに? - 次のクルマは「自動運転」になるのか?
「自動運転車っていつごろ商品化されるんですか?」という質問をよく受ける。これにスカッと答えるのはなかなか難しい。条件分岐がいっぱいあるのだ。今回は自動運転の現実的な話をしよう。 - クルマのコモディティ化と衝突安全
ここのところ繰り返し書いているテーマの1つが、「クルマはコモディティ化していく」という安易な理解への反論だ。今回は衝突安全の面からこの話をしたい。 - 日産とスバル 法令順守は日本の敵
完成検査問題で日本の自動車産業が揺れている。問題となっているのは、生産の最終過程において、国土交通省の指定する完成検査が無資格者によって行われていたことである。これは法令順守の問題だ。ただ、そもそもルールの中身についてはどこまで議論がされているのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.