16歳のアイドルを自殺に追い込む、「夢を食うおじさん」の罪:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
16歳の農業アイドルが自殺した。所属事務所のブラックぶりが明らかになりつつあるが、筆者の窪田氏は「事務所に注目が集まってしまうと、少女を死に追いやった『真犯人』を逃がしてしまうかもしれない」と危惧する。どういう意味かというと……。
「奴隷契約」を容認しているのは誰か
このような過去を振り返れば、日本の芸能ビジネス特有のひずんだマネジメントスタイルが多くの女性を犠牲にしてきたのは明白だ。今回の16歳の少女の悲劇についても「悪徳事務所」をとっちめて終わりではなく、根本的な議論に発展させていくべきではないか。
個人的には、日本で罪悪感マネジメントがここまで発展したのは、「年季奉公」に代表される、借金を背負わせた人に「体で返済させる」という日本版奴隷制度の名残りだと思っている。かつて日本では、NHKの連続テレビ小説『おしん』で描かれたように、貧しい寒村から売られた娘がたくさんいた。彼女たちは、「借金のカタに取られた」という罪悪感を植え付けられながら、ハードな重労働や、売春などを強いられた。
よく愛国心の強い方たちは、日本には欧米と違って奴隷制度がない平等な国だというが、実態は借金を背負わせて、「奉公」という形で、自主的に奴隷になるスタイルを採用していただけなのだ。つまり、罪悪感マネジメントでうまくオブラートに包んでいたのだ。
そう考えると、売れないアイドルたちも、芸能事務所社長やプロデューサーという「夢食うおじさん」に「年季奉公」している、「平成のおしん」と言ってもいいのかもしれない。
先日、『朝日新聞』の『泊めたら性行為「暗黙の了解」 家出少女につけ込む大人』(2018年10月12日)という記事について、安冨歩・東京大学教授がSNSで「家出少女につけこむ大人より、少女を家出に追い込む大人のほうが問題だろうが」という本質をえぐるようなツッコミを入れていた。
この問題も実は全く同じ構造のような気がしている。アイドルを目指す少女たちにつけ込んで搾取しようする大人は確かに問題だ。だが、それよりも遥かに問題なのは、アイドルを目指す少女たちに「罪悪感」を植え付けて、「奴隷契約」を結ぶように仕向けている「夢を食うおじさん」たちなのではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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