1250円の「カレー専用スプーン」は、どうやって開発したのか:あの会社のこの商品(4/4 ページ)
カレーライスを食べる時、スプーンにこだわる人は多くないだろう。出されたものを使うか、無意識に選んだものを使っているはずである。しかし世の中には、カレー専用につくられたスプーンがある。その中でも現在、注目を集めているのが、「カレー賢人」だ。
予想に反し売れ品切れを起こす
現在は一部の小売店でも取り扱われているが、「カレー賢人」は最初、同社のオンラインショップでのみ販売した。その理由は、コストをかけてつくったからであった。
100円ショップで売っているような安いスプーンは6〜8工程程度でつくっているのに対し、「カレー賢人」は30工程近くかけて製造している。「コストをかけてつくったからといって、お客さまの手に届きにくい価格にはできません。税抜1250円でも『高い』と言われますが、このあたりの価格で売るために、問屋を介さず自分たちで売ることにしました」と山崎氏は明かす。
発売するとさまざまなメディアが注目。SNSを中心に話題が拡散していったこと、「それほど売れるとは思わなかったので、生産量も控え目にした」(中村氏)ことから、品切れを起こすことになった。
販売に当たり同社が重視したのは口コミだった。その理由を中村氏は「カレーマニアはうんちくを語りたがるところがあるため」と言う。ヒアリングに協力してくれたカレー店の店主やカレーマニアをはじめ、全国のカレー好きの目に留まり、「カレー賢人」の口コミが拡散していった。
話題になったことで、法人のギフト需要を開拓することにも成功する。洋食器をプレゼントする場合、ナイフ、フォーク、スプーンなどセットにしたものを渡すのが一般的だが、「カレー賢人」だと1本単位で渡すことが可能。1本だけ入れられる専用ケースをつくり、ギフト需要に対応している。
ユーザーからは「使い勝手がいい」「取りやすい」「口抜けがいい」と評されることが多く、マイスプーンとして常に持ち歩いている人もいるほど。また、「キャリ」ではライス、ルウ、具材の黄金比が実現することから、子どもから「スプーンの中にミニカレーができた」という声が寄せられたこともあった。
注文数では個人からのものが多い「カレー賢人」だが、今後はカレー専門店など業務用途も積極的に開拓したい考え。さらなる人気は、業務用途での拡販がカギを握っている。
著者プロフィール:
大澤裕司(おおさわ・ゆうじ)
フリーランスライター。1969年生まれ。月刊誌の編集などを経て、2005年に独立してフリーに。工場にまつわること全般、商品開発、技術開発、IT(主に基幹系システム、製造業向けITツール)、中小企業、などをテーマに、雑誌やWebサイトなどで執筆活動を行なっている。著書に『これがドクソー企業だ』(発明推進協会)のほか、ITmedia ビジネスオンラインの人気連載をまとめた『バカ売れ法則大全』(行列研究所/SBクリエイティブ)がある。
関連記事
- 「男女混合フロア」のあるカプセルホテルが、稼働率90%の理由
渋谷駅から徒歩5分ほどのところに、ちょっと変わったカプセルホテルが誕生した。その名は「The Millennials Shibuya」。カプセルホテルといえば安全性などを理由に、男女別フロアを設けるところが多いが、ここは違う。あえて「男女混合フロア」を取り入れているのだ。その狙いは……。 - それでもTEACが、カセットデッキをつくり続ける理由
オーディオメーカーのTEACがダブルカセットデッキを発売した。カセットテープ市場は20年以上前から縮小しているのに、なぜこのタイミングで新製品を投入したのか。同社の担当者に理由を聞いたところ……。 - 正体不明の楽器「Venova」は、どのようにして生まれたのか
楽器を演奏してみたかったけど、高価すぎて断念した。こんな思いをした人も多いのでは? この課題にヤマハは挑み、気軽に始められ比較的安価な新ジャンルの楽器を開発。一度見たら忘れそうにないデザインの「Venova」を生み出した。インパクト十分の楽器は、いかにして誕生したのであろうか? - なぜカシオの「余り計算機」は、いまの時代でも売れているのか
調剤薬局や物流会社の倉庫では、電卓で余りを計算することが頻繁にあり、効率化が求められていた。このようなニーズから生まれたのが、カシオ計算機の「余り計算電卓 MP-12R」だ。特定のユーザーを対象にした専門的な機能を搭載したニッチな電卓の、誕生までの歩みを追った。 - 東京で「フードトラック」が、どんどん増えている秘密
平日の昼。毎日同じようなモノを食べていて、飽きているビジネスパーソンも多いのでは。そんなランチ難民とも言える人を救うかもしれないサービスが登場している。フードトラックと空きスペースがあるオフィスビルをマッチングさせるサービスで、そこで提供されるランチを利用する人が増えているのだ。 - なぜ「スーツみたいな作業着」をつくって、しかも売れているのか
スーツのような作業着「WORK WEAR SUIT(ワークウェアスーツ)」が売れている。製造しているのはアパレルメーカーでもなく、作業着メーカーでもない。水道工事などを行っている会社がつくったわけだが、なぜこのような商品を開発したのか。その狙いを聞いたところ……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.