なぜ「ストレスチェック制度」は浸透しないのか?:メンタルヘルス不調者は増加傾向(5/5 ページ)
2015年に導入されたストレスチェック制度。しかしその活用は、まだあまり進んでいないようだ。企業におけるメンタルヘルス不調者数の状況とストレスチェック制度の実施状況を確認し、今後の制度活用について検討する。
より実効性のある制度とするために
以上見てきたとおり、近年、メンタルヘルス不調への予防に向けた取り組みが活発になってきているが、現在のところ、メンタルヘルス不調者数や離職者数に大きな改善は見られない。
17年には、対象となる企業の8割がストレスチェック制度を実施し、在籍する従業員の8割程度が受検したことから、実際に受検したのは対象者の6割強に留まった。高ストレス者は、希望すれば医師による面接を受けることができるが、面接を受けた割合は全受検者の0.6%程度である。
過去1年間のメンタルヘルス不調を理由とする休業や離職が0.7%だったことを考えると、低い水準だと言えるだろう。現在の制度では、本人の同意がない限り、個人の結果は職場に知らされないが、高ストレス者の面接は職場に申し出る必要があり、職場にストレス状態を知られてしまうため、高ストレス者、またはその予備群が、受検や面接を敬遠している可能性がある。
職場では、個人ごとの結果を見ることができないため、主に集団分析の結果を活用することになるが、集団分析を行ったのは半数強で、残りは行っていなかった。集団分析を行った企業に限ってみても、業務配分の見直し、人事体制・組織の見直し、管理監督者向けの研修の実施などの対策に至った割合は、それぞれ、集団分析実施企業の1〜2割で、結果を活用していない企業が3割弱に上った。従業員からは、受検のメリットが実感しづらい可能性がある。
労使による結果の共有のあり方 「やりっぱなし」にならないように
ストレスチェック制度を導入することによって、自分が高ストレスであることに気付いていても、職場に伝える方法がなかった従業員にとっては、職場に状態を伝え、医師等の助言をもらう機会を得ることができる。または、心身の自覚症状がなく、自分のストレスに気付いていなかった従業員にとっては、アンケートに回答する中で、自分のストレス状況に気付くきっかけとなる可能性がある。
集団分析によって、業務配分の見直し、人事体制・組織の見直し、管理監督者向けの研修の実施につながった例もあるほか、(公社)全国労働衛生団体連合会の報告にあるように、仕事量を調整できない職場であっても、周囲からサポートを行ったり、仕事のコントロール度を増すことで、ストレス反応への効果が表れる可能性がある等、分析を行うことで、その職場にあった対応策が見つかる可能性もあると考えられる。
しかし、制度導入当初から指摘されていた、高ストレス者が面接を申し出ない、正直に回答しない、受検しない、という課題は残されたままだ。従業員のストレス状態を改善し、生産性を上げるような効果的な制度とするためには、面接を受ける機会を増やす必要があると思われる。
例えば、高ストレス者の面接は、職場に知られることなく受けることができ、職場での対応が必要になる場合に、本人が納得の上で職場に伝えられる等、現在よりも匿名性を高めること、あるいは、ストレスチェック制度とは関係なく、定期的に医師等による面接を受ける機会を作ること等が考えられないだろうか。
さらに、現在、受検している高ストレス状態でない従業員においては、受検のメリットを感じることができなければ、いずれ受検をしなくなったり、いい加減な回答をするようになりかねず、制度が形骸化する恐れがある。受検率を上げ、現状を正確に答えるようにするためには、衛生委員会で議論するだけでなく、ストレスチェック結果の概要や職場課題、今後の対応策について、従業員と共有していくことが必要だろう。
このような対応を行うことで、従業員自身にストレスチェック実施の意義について理解を深めることが重要だろう。
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