ECから撤退して店舗を強化するドンキの狙い:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
ユニーがドンキホーテホールディングスの完全子会社になることが発表された。これは時間の問題だったのであろうが、想像以上に速い展開が周囲を驚かせた。そこから見えてくるドンキホーテの狙いとは一体?
ドンキホーテの大胆な戦略
そうした中では、冒頭の話題にも出ていたドンキホーテのECからの実質的撤退と、店舗におけるテクノロジーの強化という大胆な戦略は、大変興味深い。店舗テクノロジーとは、来店客が必ず持っているであろうスマホのアプリを使って、店内ではお客の顔認証で接客精度を向上させる。例えば、チェックイン機能、探している商品の店内位置をマップで確認できる機能、キャンペーン商品のディスプレイ前でゲームイベント通知をアプリに配信する機能、QRコードを活用して商品の使用動画や詳細情報が確認できる機能などを検討しているというが、要は来店時に楽しく買物ができる仕組みをテクノロジーによって強化していくのだ。
ほかでもこうした店舗テクノロジーの強化をうたう企業がないわけではない。しかし、この会社が言うとリアリティーを感じるのは、ドンキホーテの店舗の強みが、彼らが「魔境」と称する時間消費のための空間を提供できる数少ないリアル店舗小売だからなのだと思う。
ドンキホーテは、長崎屋やユニーにとどまらず、さまざまな総合スーパーなどの閉鎖店舗に居抜きで出店して、商業施設として活性化することに成功してきた。その手法は、総合スーパーのようなに、すべての人をターゲットとして設定することで、かえって、誰からも支持されない、という店づくりへの強烈なアンチテーゼであったと言える。
彼らの店は、うず高く商品を積み上げる圧縮陳列と、面白さ重視の店内POP(商品説明の札)によって宝探し空間を作り出して、暇つぶしをしながら思わず衝動買いさせる、といった売場であることはご存知の通りだ。確かに時間がある人にはいいかもしれないが、必要なものを買って最短時間で買物を済ませたい顧客には、便利な店とは言い難い。
しかし、彼らはそんなことは百も承知で、「こうした面白い、楽しい店が好きな人」「今は時間があって楽しい店の方がいい」という人にターゲットを絞って商売をしている。そうでない人は「来てもらわなくて結構」というスタンスである。
対象を絞った店作りが、結果的には時間消費型店舗という他にはないリアル店舗を実現し、その結果、訪日外国人の間でも話題となり、今では定番の観光スポットとなっている。店舗で過ごす時間を目的に来店してもらえることこそ、リアル店舗小売がECに代替されない最大の要素であろう。ドンキホーテは、ECに伍して生き残っていけるリアル店舗の、一つの解を示しているといえよう。
ドンキホーテのこうした取り組みは、ECなど存在していない創業時からのものであり、決して意図してこうなったわけではない。この会社の企業文化は「逆張り」であり、王道とは違う道を選ぶ習性を持っていることで知られる。圧縮陳列、深夜営業、非効率に見えるPOP、対象顧客は暇な人など、他社がやらないことばかりをやる会社だ。
しかし、過去の歴史を見ると、変化する環境の下、王道はいつか必ず廃れ、邪道とされていた中から新たな成功の種が生み出されてきた。ECの時代といわれる中で、あえて、リアル店舗を強化することに特化するこの会社の邪道は、また成功の種を見つけたのかもしれない。
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