日産リバイバルプランがもたらしたもの ゴーン問題の補助線(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
1990年代、業績不振に喘ぐ日産自動車にやって来たカルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン(NRP)」を策定して大ナタを振るった。その結果、奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。しかし一方で、それがもたらした負の遺産も大きかったという。
なぜそんな状況に陥ったかと言えば、社内の権力闘争が生んだ非合理的なセクショナリズムが原因だ。強すぎる労働組合を背景にした労使の癒着、旧日産系とプリンス系の反目、学閥、系列の悪習慣、本来一丸となって戦うべき組織が内部摩擦でエネルギーの多くを損耗していた。
言ってみれば、対立する組織ごとに社内にそれぞれ別の会社を作って互いをライバル視している状態だった。象徴的な事象を挙げてみよう。
まずは工場とプラットフォームの莫大な数だ。99年には7工場、24プラットフォームがあった。日産系とプリンス系が互いに自分たちが開発したプラットフォームを相手には渡そうとしないとか、同じ技術や同じクラスのクルマを同一の会社の中で複数開発していた。そんな馬鹿な闘争を続けていれば経費が膨れ上がるのは当然だ。
さらに販売会社や系列のサプライヤーは天下りの温床となっており、天下り席の確保と引き換えに取引の規律が緩んでいた。天下ってトップに就いた経営者は販売店やサプライヤーにとって最良の経営をすることよりも、仕事をくれる日産の方だけを見て仕事をする。そういう構造はフラクタルに連続してさまざまな階層がそれぞれに小さな権力を持ち、その権力で獲得できる利権で会社を食い物にしていた。
ゴーン氏はそこに日産リバイバルプラン(NRP)を策定して大ナタを振るった。2001年には7工場24プラットフォームを、4工場15プラットフォームに縮小。販売拠点は約1割の355店舗を閉鎖し、国内の販売会社も約2割に当たる18社を削減した。2万3000人の従業員数削減、5300億円の資産売却。大量の血が流れた。すでに書いてきた通り、彼らは人生を破壊された被害者でもあるが、無実ではない。大粛清の到来はそれまでの彼らのやり方が招いたものだ。
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