日産リバイバルプランがもたらしたもの ゴーン問題の補助線(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
1990年代、業績不振に喘ぐ日産自動車にやって来たカルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン(NRP)」を策定して大ナタを振るった。その結果、奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。しかし一方で、それがもたらした負の遺産も大きかったという。
後の祭り
しがらみの外からやってきた外国人社長の辣腕で日産は奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。
プラスに転じた1999年の改革着手時には830億円だった営業利益が、2000年には2900億円、01年に4900億円へと大幅に回復。01年の営業利益率は7.9%に跳ね上がった。98年に2兆1000億円あった有利子負債は01年には4350億円に圧縮された。
ただし、とここで書かなくてはならない。
瀕死状態からの回復で何も失わないのは難しいだろうが、販売会社の大規模整理はさすがにやり過ぎだったと思う。戻れない川を渡ってしまった。メーカーにとって販売拠点は商品の換金所である。それを整理すれば売り上げは当然ダウンするし、後悔しても元に戻す方法はない。加えて残った販売店の士気を著しく落とす。拠点の削減は、日本国内のマーケットの成長可能性を見限ったサインに見えるからだ。
それらの大手術によって日産は全く別の会社になってしまった。伸びの見込めるマーケットに選択と集中を図り、2つの地域事業に特化した。アジアを中心とした新興国では廉価なクルマを薄利多売するメーカーになり、北米ではインフィニティブランドで高付加価値マーケットにエントリーする。
サニーやプリメーラやセドリックに代表されるこれまでの普通の日産車の階層がごっそりと抜け落ちた。古いモデルをモデルチェンジもなしに放ったらかしにしたり、廃盤にするばかりでニューモデルが出てこない。ヒットモデルであるジュークですら2010年にデビューしたままモデルチェンジもなし。ジュークの属するコンパクトSUVというジャンルは現在各社が血眼で競争しているホットなクラスであるにもかかわらずだ。
ごくまれに日本国内で新型車が発売されても、ほとんどが海外向けのクルマのおこぼれに過ぎない。ミニバンと軽以外に日本国内マーケットを見据えたクルマは見事に出てこなくなった。
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