日産リバイバルプランがもたらしたもの ゴーン問題の補助線(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
1990年代、業績不振に喘ぐ日産自動車にやって来たカルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン(NRP)」を策定して大ナタを振るった。その結果、奇跡の回復を見せ、長年の赤字のトンネルを抜けた。しかし一方で、それがもたらした負の遺産も大きかったという。
改革完了後の姿
ゴーン氏の改革は確かに瀕死の日産自動車を助けた。それがなければ倒産していた可能性は高い。しかし、同時に日産自動車という会社の性格を大幅に変えてしまったのも事実である。大掛かりな体質改善こそがリバイバルプランだと居直られれば言葉を失うが、それは国内の販売会社とユーザー、要するに「日本マーケットそのものが整理対象だ」と言っているのに等しい。
これはあくまでも筆者の推論だが、ゴーン氏は日産自動車の短期的なV字回復を手土産にルノーに凱旋し、ルノーのトップに収まる絵図を描いていたのではないか?
日産リバイバルプランのうち、特に実行に移された改革を振り返ると、激しいコストカットと同時に、行われるべき未来への布石が圧倒的に少ない。うがった見方かもしれないが、自分がフランスに凱旋した後のことは我関せずというつもりだったのではないか?
現実は皮肉で、確かにルノーのトップに就いたものの、日産自動車のトップを禅譲する目論見は外れ、両社のトップを兼任することになった。もし、最初からそうなることが分かっていたら、つまり日産自動車の経営を長期的に担うことが分かっていたとしたら、ああ言うやり方にはならなかったのではないだろうか?
企業経営の視点からみれば、瀕死の、しかもあの規模の会社を完全再生に持っていったことはまれに見る成功と言える。しかし、日本政府、日本のユーザー、日本の販売店というステイクホルダーから見れば、あまりに元も子もない。恐らく多くの読者も、筆者もこの立場から日産自動車を見ることになるはずだ。
例えて言うならば、こういう話だろう。高校野球のチームが「どんな手を使ってでも甲子園で優勝しよう」と誓ったとする。そのためには優秀な選手をスカウトしてこなくてはならない。
最初は皆それに同意した。しかし改革が進むにつれ、最初に優勝を誓ったメンバーは選手、コーチともに一人もいなくなった。そして監督だけが全く中身の入れ替わったチームを率いて優勝する。これは成功だろうか? それとも失敗だろうか?
それはアダム・スミスが提唱した「神の見えざる手」の限界である。神の御技であれば、人類も地球も全宇宙のための調整要素のひとつでしかない。ダメなら人類も地球も滅ぼすだけだ。
だがわれわれは、自らが滅びることを調整要素として容認できない。神ならざる身であれば当然だ。リバイバルプラン以降、日産自動車は日本人のためのクルマを大幅に削減し、徐々に日本人と日本を顧みない会社に変わり続けている。われわれは、日産自動車にはもう一度「日本の日産自動車」に戻ってもらわねばならない。
「技術の日産」をむざむざ他国に差し出すわけにはいかないのだ。(続く)
短期集中シリーズ「ゴーン問題の補助線」
第3回:11/28(水)公開
最終回:11/29(木)公開
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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