フランス政府の思惑 ゴーン問題の補助線(3):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
多くのメディアではルノー日産アライアンスを成功例と位置付けているが、筆者はそれに同意しない。提携以来、ルノーの業績は右肩下がりを続け、日産自動車が新興国で汗水垂らして作った利益を吸い込み続けているからだ。
本当にルノー日産のアライアンスは成功か?
この話をすると「テスラがあるじゃないか!」という人がいるが、現時点でテスラが使っているのはパナソニックの18650と言う乾電池型の汎用電池である。多少のカスタマイズはしているようだが、基本はごく並みの性能の普及品でスペース効率と重量効率が悪い。そんな電池でいいのなら誰でも買える。疑うならAmazonで検索してみれば良い。ポチれば明日あなたの元にだって届く。
さて、こうして、欧州がEV先進国でも何でもないことを念頭に置いて見ると、現在ドイツよりさらに遅れているフランスとイタリアの自動車メーカーには、CASE時代の最先端で戦っていくエレクトロニクスの技術がないと言わざるを得ない。
つまり、日産自動車をルノー傘下に統合できるかどうかはルノーの未来だけの話ではなく、フランスの自動車産業全体の存亡がかかっていると見るべきだ。だからこそこの事件は国内法の中だけで決着がつかない政治案件になる可能性が強い。
ルノー日産のアライアンスを成功例と捉える論調を多く見かけるが、それにも違和感がある。
言葉を選ばずにいえば、ルノーは日産自動車の売り上げと技術力を吸い取るヒモに成り下がっている。ルノー自身が奮起の上、経済的技術的に自立して、日産自動車や三菱自動車と相互に高め合うアライアンスを組めないのであれば、そんな片務的なアライアンスはどこかで縁を切るべきだろう。
仮に日産自動車から利益補てんを得られない状況であったとしたら、ルノーはもっと早い時点で改革に着手せざるを得なかったはずで、甘えの構造はルノー自身のためにもならない。国策、つまり国の都合の話を切り離して、自由経済の原則で考えれば、ゾンビ企業がいつまでも生き残れるスキームは広い意味での経済発展に寄与しない。ごく当たり前の話だ。
しかし、そんな正論と違うフェーズで事態は進行していくのではないかと思う。なぜならばこの争いの真のプレイヤーはすでに両国政府だからだ。そこは政治案件なので、われわれはただ行方を見守るしかない。(続く)
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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