続・自動車メーカーの下請けいじめ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
「大手自動車メーカーは悪」「中小企業の下請けは正義」みたいな決めつけを止めないと、この国の経済は良くならない。サプライヤーがしかるべき原価低減も行わず、新技術の開発もせずに現状を維持していたら、それでこの国が幸せになれるのかをちゃんと考えてみた方が良い。
CASE1:中国の部品メーカーと同じ値段に
下請け企業の社長が言う。「ある日メーカーの人に呼び付けられて、従来納めていた製品の納入価格を50%下げろと言われました。そんなことは無理だと言うと、中国の部品メーカーから提示された見積もりが納入価格の50%だったので、それに合わせろと言われたのです。そんな金額にしたら社員に給料を払っていかれません。けれども、断ればこのメーカーからの仕事を失って、会社が存続できなくなります。結局どんなに無理でも飲むしかないのです」。
なるほど気の毒だ。それは大変だろう。しかしかわいそうだからと、現状の金額で部品納入を受けていたらどうなるのか? 50%安い単価で作られた部品は競合他社の製品に採用されるだろう。そういうことが続けば当然競争に勝てなくなり、やがてメーカーは凋落することになる。
消費者の側が、もし「弱者がかわいそうだ」と言うなら、「クルマが高い」と言う資格はない。かわいそうな人を守るために、旧態然とした性能のクルマを高い値段で買って「弱者のために良いことをした」と満足すべきだ。だが、そんな話は全く現実的ではない。
自由経済のマーケットでは、消費者はより高性能で安価なものを自由に選択して買うことができる。それが技術やサービスを進化させる原動力であり、悪とみなしても始まらない。
筆者はこのケースでのメーカーの対応はとても誠実だと思う。本来であれば中国のメーカーから50%安い価格を提示された時点で、そのまま乗り換えることもできる。厳格な品質テストを行うのだから、性能の問題は発生しない。必要な機能を満たしながら半額で調達できる。
調達担当にしてみれば、それをわざわざ従来の業者に伝えるのはかなり面倒臭い。「はい、そうですか」と言うはずもないし、抵抗もされるし、恨まれもするだろう。にもかかわらず、わざわざ情報を提供して、取引継続のチャンスを与えているのだ。
逆の立場だったらどうだろう? 今回値引きを押し付けられた下請けが実は高い技術を持っていて、納入先の競合メーカーから「ウチなら倍の値段で部品を買いますよ」と言って来たとき、従来の取引先メーカーにそれをわざわざ言いに行くだろうか?
物事の一面だけしか見ないからその誠意が分からない。
一応、条件を考えておかなくてはいけない。中国という特殊な国では、不当廉売によって市場を独占するために政府の後押しがある場合がある。仮に中国の部品メーカーが政府からの多額の補助金によって正しい競争を逸脱した価格を提示しているなら大問題で、そういうケースが実際にあるからドナルド・トランプ米国大統領は、中国の貿易のやり方を糾弾し、懲罰関税をかけている。
しかし、それは政府の領域であって、メーカーの領域ではない。だから、メーカーとしては現実にその価格が提示された以上、その価格で部品を製造する方法があるのだという前提で考えるしかない。つまりメーカーから見ると、自社のサプライヤーが価格競争力で他社に負けそうになっている。だから具体的にその価格を提示して、それと同じレベルで戦えるように要望している。少なくともそれより安くしろとは言っていないのだ。
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