金魚すくいにテレビゲームが「仕事」? “虚業”化した障害者雇用をどう変える:効率化へのインセンティブなき「異常」(5/5 ページ)
自身も脳性麻痺(まひ)の子どもを持ち、『新版 障害者の経済学』などの著作もある慶應義塾大学の中島隆信教授が、障害者雇用の問題点を指摘した。
4000人の障害者を追加雇用できるのか?
ではどうやってこの問題を解決するのか。まず、障害者を本業で戦力化することが決定的に重要です。会社の業績が良くなったときや事業が拡大したときに、障害者の仕事も一緒に増えないといけない。だから本業で戦力にしなければならないのです。
もう一つは、テレワークなど多様な働き方を活用することです。障害者の中には、毎日オフィスに通うのが難しい人もいます。特に東京は満員電車に乗らなければなりませんね。車いす利用者や精神疾患のある人には特に厳しいでしょう。省庁などによる水増し問題への措置として、政府は4000人の障害者を追加雇用するとしています。私も内閣府に2年間いたことがありますが、省庁に本当に4000人分の仕事があるのかは疑問です。
むしろ地方に解決のヒントがあります。地方にはなかなか仕事がないので、仕方なく施設に通いながら生産性の低い仕事をしているケースもあります。そのような人たちもテレワークによって企業の仕事を担うことができます。(「地方の障害者雇用」を創出するリクルートのテレワークを参照)。
もう一つの解決策として、私は「みなし雇用」という方法を提言しています。みなし雇用とは、おのおのの企業が就労継続支援A型事業所に業務を発注したとき、その業務量に応じてそれぞれの企業の雇用率にカウントできるというものです。
みなし雇用を実現するには施設と企業のマッチングが極めて重要です。だから仲介業者が重要な役割を果たすことになります。仲介業者は施設から障害者の就労能力について情報をもらい、一方で企業から業務内容の情報を提供してもらいます。これには民間企業が参入する余地もあるでしょう。
みなし雇用の利点はいくつかありますが、大きいのは間接業務や雑用だった仕事が本業化することです。例えば清掃の仕事を専門にやるA型事業所であれば、清掃作業を本業にできます。清掃業務で生産性を上げれば、別の企業からも注文を取ってくることができるようになります。もっとレベルの高い仕事を頼まれたり、業務が拡大したりする可能性もあるのです。しかし一企業内で清掃の仕事をしているだけでは、絶対に業務は拡大できません。生産性を上げても障害者の働く場所が失われるので、企業には歓迎されないのです。
現行制度の最大の問題点は、人数によって規制をかけていることです。大事なのは人の数ではなく、仕事の業務量を確保することなのです。業務量がきちんと確保できれば、障害者が失業することはないからです。
(終わり)
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