違反すると懲役刑や罰金刑も! 「残業時間の上限規制」の影響を弁護士に聞いた:「知らなかった」では済まされない(6/6 ページ)
2019年4月から働き方改革関連法が施行される。「残業時間の上限規制」など関連法の内容と、企業団体の人事・総務に求められる具体的な対応を、TMI総合法律事務所パートナーの近藤圭介弁護士に聞いた。
割増賃金を誰が支払うのか
副業・兼業にはいくつか留意点とデメリットがあるので、実務上は注意をする必要があります。まずは、労働時間を含めて「割増賃金を誰が支払うのか」という問題があります。労働基準法上、事業所が異なる場合であっても、労働時間は通算することになっています。
例えばA社で働いている方がいて、就業時間が終わった後に副業としてB社で働いていたとします。そのときにA社で8時間、B社で3時間働いていたときに、普通に考えればそれぞれ8時間、3時間働いたということで問題ないように思えます。しかし、会社が違ったとしても、労基法上は労働時間は通算しなければならないので、その人は11時間働いたことになるのです。
労基法上、8時間以上働いた場合は、25%増しの時間外労働の割増賃金を支払わなければならないですね。ということは、この割増賃金は、A社とB社のどちらが支払うのかという問題が発生します。これには解釈の違いがあるのですが、基本的には、労働契約を後で締結した会社が、割増賃金の支払い義務を負うこととなります。これは後で締結する会社は、既に締結している雇用契約の内容を確認できる立場にあることが理由となります。
なお、上記は、労働者として働く場合に問題になります。例えばA社で労働者をしていてB社では代表取締役や個人事業主、フリーランスなど、雇用ではない形態で働いているということであれば、当然ですが労働時間としては通算されません。従って、気を付けなければならないのは従業員として兼業・副業する場合のみです。
「安全配慮義務を誰が負うのか」
次に「安全配慮義務を誰が負うのか」という問題があります。一番ひどい場合は過労死ということにもなります。例えば、A社で8時間、B社で3時間働いているとすれば、これは月の残業時間が45時間を超えます。もしその方が健康を害してしまったときや、もっと悪いケースであればその方が亡くなってしまった場合は、遺族の方が会社を訴えてくることも考えられます。そうした場合に、A社とB社のどちらが責任を追うのかという問題があります。これは裁判所を含めて、今のところ明確な判断はありません。
ただ副業・兼業をしていることを把握しながら残業をさせていた場合、責任を追及される可能性が高いです。そういう意味では副業や兼業を認める際にも、会社として従業員の副業先も含めて労働時間はきちんと管理する必要があります。A社の人事部としては、B社で働く従業員にはどのくらい働くのかを報告させて、きちんと把握しておかないと安全配慮義務との関係で、問題が出る可能性があるからです。
「私はA社の人事だからB社でどのくらい従業員が働いているかは知りません」では済まされないのです。B社でそんなに働くなら、会社の業務に直接支障はなくとも、「あなたの健康面で問題があるから許可しません」などといった対応も必要になると考えられます。従って副業・兼業は、労働時間や割増賃金の管理といった難しい問題が残っていますので、対応については留意する必要があります。
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