「値上げはしない」苦境の吉野家が挑む“初めてのマーケティング”:「うまい・安い・早い」頼みから脱却(2/3 ページ)
コスト高にあえぐ吉野家が“初めてのマーケティング”に挑戦。新型店舗で女性客を取り込み多彩なクーポンも発行。今後は単価を高くするメニュー提案も。
マーケティングのプロを
そこで新たな施策の要として強化しているのが、16年に試験投入し始めた「キャッシュ&キャリー」型店舗だ。看板の色からSNSなどで「黒い吉野家」と呼ばれる。店員が注文を聞きに来る従来のスタイルではなく、レジで客が注文して受取コーナーで料理を受け取る。
従業員のコスト削減の意味合いも強いが、植田執行役員が強調するのが女性客の増加だ。白が基調のカフェ風の店内デザインも奏功し、都心型の店舗では改装後、女性客の1店舗当たりの利用人数が5割ほど増えた。
「女性客は『お会計を』と店員に一声かけるシステムが嫌だったようだ。最初に注文と会計を済ませれば良いセルフサービスは自由度が高く、彼女たちに抵抗感が無かった」(植田執行役員)。従来、吉野家では食後にすぐ店を出る客が多かったが、新型店舗では席で数分一息つくなど、必ずしも「早さ」重視でない客も増えているとみる。現在24店舗を改装済みで、全約1200店舗のうち年間100店ずつ、最終的には400〜500店を転換する予定だ。
「吉野家は日本の外食の中でも女性が入りにくい店ではトップクラス」(植田執行役員)。女性を呼び込むため、他にも新型店舗の実験投入を進める。17年から始めた、「ジグソーカウンター」と同社で呼んでいる、テーブルをジグザグにずらして配置した店もその1つだ。食事中に他人との距離や視線を気にする女性に配慮して、従来店舗より机の間隔が開くようにした。
こうした新たな施策を強化するため、18年には外部からマーケティングの専門家を招いた。P&Gで洗剤のジョイやアリエールなどのブランド再生を手掛けてきた伊東正明さんだ。1月に戦略担当顧問として吉野家に関わり、10月には常務に就任した。幹部の多くが店舗勤務を経験したたたき上げの中、異色の存在だ。
伊東さんは「外食を取り巻く環境は非常にきついが、よその外食すべてが赤字決算というわけでもない」と断じる。特に、牛丼は粗利率の決して低い商品でなく、現状では集客が足りていないとみて、顧客像を分析した上でのマーケティングを打ち出す。
5月、新生活を始める学生をターゲットにした学割キャンペーンを実施した。9〜10月には、はなまるうどんとすかいらーくグループのガストとの3チェーン合同で、クーポンとして使える「定期券」を発行した。外食で競合他社と連携した割引券を発行するのは異例だ。
いずれも、これまで吉野家を使っていなかった若者や他店の客に、同店に通うきっかけを持ってもらい習慣化させるのが目的だ。「外食に1度来ても2度とこない人は多い。うちが日々の食事のローテーションに入るようにして来店頻度を上げれば、全体の来客数は伸びる」(伊東さん)。こうした施策を通じて、3年間で現在の1店舗当たりの来客数を10%以上伸ばしていくという。
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