2018年に乗った特筆すべき日本のクルマ(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
2018年もいろいろなクルマの試乗会に行った。もちろん全ての試乗会に呼ばれるわけではないので、あくまでも筆者が試乗した範囲で「特筆すべきクルマ」について振り返りたい。前後編で6台の日本のクルマを紹介する。
マツダ・CX-8
CX-8の魅力はハッキリしている。まず3列(6人または7人)乗りのクルマとしてちゃんと走ること。裏返せば3列シートジャンルにはちゃんと走らないクルマが多い。
従来のこのジャンルのクルマは、床の剛性が圧倒的に不足しており「王様シート」であるはずの2列目のシートが剛性不足の床から伝わる振動でブルブルと揺れ続けるクルマが多かった。アルファード/ヴェルファイアはまさにそういうクルマだ。
CX-8はそれを国産で初めて克服した。この2列目の快適なシートとトレードオフになったのはスライドドアだ。筆者はそれを英断だと思う。ブルブル震えるシートの原因はスライドドアのレールがキャビンの構造部材と最適位置取りで競合するためで、どちらかを譲るしかない。スライドドアを優先したのがアルファード/ヴェルファイアであり、構造材を優先したのがCX-8である。乗り降りの利便性と着座時の平穏、どちらが重要かと言えば筆者には後者に思える。
さらに追突時の3列目シートの安全性を日本のメーカーとして初めて公式に明らかにしたことも大きい。日本の法規には3列目の乗員の生存空間が追突時に確保されるかどうかについての試験項目がない。追突試験は2列目の乗員の損傷で測られている。3列目の実験結果が公表されていない以上、それが果たして安全かどうかは分からない。
とりわけ、Bセグメント級の小さいクルマの3列目シートは衝撃を吸収するスペースが物理的に確保できず、筆者には安全であるとはとても思えない。ただ筆者は、それをことさらに騒ぎ立てて、安くて多人数乗りのクルマを全部廃止にして良いとも考えていない。
普段は2列目シートまでを使い、3列目は主に荷物置きや年に数度の例外的シチュエーションでのみ使う。かつ速度差の小さい一般道に限って使うのなら現実的な選択肢だと思う。その程度の頻度のために、普段から大きく重く高価なクルマを使うのは資源的にも無駄である。コンパクトカーの多人数乗りを否定することは、すなわち「貧乏人は多人数乗車するな」という話になる。
しかし、家族が大人数であるとかの理由で、もっと日常的に3列目に人が乗るのだとしたら、CX-8は世界で最も安価かつ、安全性の高いことが言明された3列シートモデルだと言える。マツダは時速80キロでのオフセット追突の実験結果を公表し、自重1.4トンのクルマがこの速度で追突しても3列目の生存空間が維持され、シート各部に一切の変形が起きないことを発表したのだ。
よって、前提としてスライドドアが諦められる人に限って、3列シートモデルのベストモデルと言って良いと思う。
価格とサイズが受け入れられるのならば現在ベストチョイスと言える多人数乗り乗用車だろう。
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