2018年に乗った特筆すべき日本のクルマ(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/4 ページ)
2018年もいろいろなクルマの試乗会に行った。もちろん全ての試乗会に呼ばれるわけではないので、あくまでも筆者が試乗した範囲で「特筆すべきクルマ」について振り返りたい。前後編で6台の日本のクルマを紹介する。
ダイハツ・ミラ・トコット
ダイハツは「Fun to Drive」を追い求めない唯一のメーカーである。もちろん例外はあって、現行のコペンあたりは非常に楽しいハンドリングカーに仕立てられているが、メーカーそのものの基本スタンスはそこにはない。
ダイハツはそもそも現存する国内最古の自動車メーカーであり、「我が国でも内燃機関を実用化すべし」と考えた学者が作った会社だ。
だから彼らは「科学技術で人々の暮らしをより豊かにしたい」のだ。ダイハツのスローガンである「Light you up」は人々の暮らしを照らすものでありたいという願いが込められている。そういうダイハツの立脚点から見たとき、ミラ・トコットは非常に輝いて見える。
女性仕様に位置付けられていたミラ・ココアの後継としてトコットが企画されたとき、「可愛いクルマを作れば良いのだ」と考えていたおっさんエンジニアたちは女性の意見に打ちのめされる。「可愛い自己演出を盛ったクルマなんて私は求めていない。もっとシンプルで飾らないものが欲しい」。昔の言葉で言えば「ぶりっこ」仕様になんて付き合っていられないということである。
さて、ミラのシャシーを使ってコスメティックに女の子女の子したクルマを作れば良いと考えていたエンジニアはいきなり大平原に放り出された。「可愛い」じゃない21世紀の女性らしさを生み出せと言われたのだ。
難産の末たどり着いた結論は、何よりもまず運転しやすいことだ。車両の四隅の把握がし易いこと、視界が広いこと、操作系の反応が神経質でなく扱い易いこと。ミラ・トコットは女性仕様の枠組みを超えて、ユニバーサルデザインと呼べるものになった。
老若男女誰が乗っても運転し易いクルマ。それこそが「Light you up」の精神ではないか。ダイハツはミラ・トコットでそこに回帰した。
実際に乗ってみても、低速での取り回しがすこぶるやりやすい。狭い場所に停める時もギリギリまで安心して寄せられる。そしてそれだけではなく、時速80〜100キロの高速でも、穏やかだがシュアなハンドリングを見せる。華美な飛び道具は1つもないかもしれないが、クルマの基本は全部備えている。
そして価格面でも、昨今高騰する軽自動車にあって、107万円からという低価格を実現している。学者がノブレス・オブリージュに則って大衆のためのクルマを造ったらまさにそうなるだろうと言える道具になっている。
参照記事:ダイハツの未来を決めるミラ・トコット
さて次回はいよいよ今年最後の記事。残る3台、クラウン、カローラ・スポーツ、ジムニーを取り上げたい(後編に続く)。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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