カルロス・ゴーンは現代の立花萬平か 日本が「人質司法」を止められない事情:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
日産自動車前会長、カルロス・ゴーン容疑者が意見陳述で容疑を否認した。一連の騒動についてさまざまな人がいろいろなことを述べているが、筆者の窪田順生氏はちょっと違う見方をしている。NHKの朝ドラ『まんぷく』とかぶるところがあって……。
日本は「人質司法」に固執
このような話をすると、安藤氏が逮捕された戦後間もない時代と現代を一緒にするのはおかしいだとか、こじつけだとかおっしゃる人がいるが、事実として日本の司法制度は、戦後の間もない時代から大して変わっていない。
実はその生き証人が、韓国だ。
徴用工や従軍慰安婦の判決なんかのおかげで、韓国の司法制度は「遅れている」と下に見ている日本人も多いが、世界的にはまったく逆だ。
韓国の刑事法は歴史的経緯から日本の刑法、刑訴法、旧監獄法を母体にしていることから、戦後も日本同様に「人質司法」を続けていた。だが、あまりにも非人道的だということで1980年代から、先ほどのヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長が言及した国際人権法に基づく刑事法制度改革を進めた。その詳細が日本経済新聞の『刑事司法も「韓国に学べ」』という記事で紹介されている。
『主要な点は――捜査段階の調査を証拠として採用できる条件は明確化。取り調べに弁護士が立ち会う手続きや、取り調べ可視化の方式を規定。容疑者調べは身柄を拘束せずに行う原則を明文化――などだ。どれも容疑者・被告人の人権を守り無理な取り調べをさせないために効果のある、そして日本の刑訴法にない条項である』(日本経済新聞 2011年1月16日)
つまり、日本の司法制度は、枝分かれした兄弟のような韓国でさえ30年前に「これはさすがに人権侵害がすぎる」とあらためた前時代的な「取り調べ文化」を、現代まで後生大事に守ってきた極めて珍しい存在なのだ。
これは筆者が適当に言っているわけではなく、刑法学の泰斗である松尾浩也・東大名誉教授も日本の刑事司法の現状を『世界の潮流から離れて独自のものになった「ガラパゴス的状況」』(同紙)と述べているのだ。
では、なぜ日本は韓国があらためた「人質司法」にいつまでも固執し続けるのだろうか。さまざまな意見があるだろうが、やはり300年続いた徳川幕府時代の「お上の裁き」というカルチャーが骨の髄まで染みついているからではないかと思う。
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