見かけなくなった「いちごスプーン」 メーカーが明かす現在の“意外な用途”:食べ方が変わった(1/2 ページ)
いちごスプーンを見かける機会が減った。かつては新潟県燕市で年間数十万本以上生産されていた。現在は、いちごをつぶす以外の用途でも使われているという。
「あ、このスプーン懐かしい。子どものころ、いちごをつぶして食べていたっけ」
帰省した際、実家の食器棚で久しぶりにいちごスプーンを見たという人もいるのでは。一般的なスプーンと違い、いちごをつぶしやすいように皿の部分が平らになっており、力を加えた際につるんと滑るのを防止する突起がついているのがいちごスプーンの特徴だ。
いちごスプーンを日本で初めて開発したメーカーを取材すると、現在も少量ではあるが生産を続けていた。そして、現在はいちごを食べる以外の用途にも使われるケースが増えているという。
消費者はいちごをどのようにして食べているのだろうか。食べ方によって、いちごスプーンの生産量にどのような影響を与えているのだろうか。
何もつけなくても十分甘い
いちごスプーンの変遷を調べるにあたって、消費者がどのようにしていちごを食べているのか取材することにした。
とある地方都市で40年近く青果店を営む店主によると、かつては酸味が強く小粒のいちごが多く流通していたので、砂糖や練乳で甘くして食べるお客が多かったという。同店ではかつて、いちごと一緒に練乳を並べて販売していた。たまに練乳を切らすと、お客から「練乳はないの?」と聞かれることがあった。しかし、最近では練乳と一緒に買うお客が減ったので、いちごだけを店頭に並べている。「最近のいちごは大粒になって、甘さが増しました。何もつけなくても十分おいしいので、そのまま食べる方が多くなったのではないでしょうか」と店主は分析する。
いちごの品種改良はどのように進んだのだろうか。国内有数の生産量を誇る栃木県で新品種の開発などを行う「農業試験場いちご研究所」(栃木市)の担当者によると、今から30〜40年前に広く流通していたいちごは、小粒で酸味が強かったという。しかし、品種改良が進んだ結果「食味がよいものが普及しました」(担当者)。現在流通している代表的なものには、大粒で甘い「とちおとめ」などが挙げられる。
練乳を製造するメーカーの見解は?
練乳を製造しているメーカーの見解はどうだろうか。1919年、缶入り練乳の販売を開始した森永乳業の広報担当者に話を聞いてみた。森永乳業は練乳市場のシェア約6割を誇る(同社推計)。広報担当者は「正確な調査をしたことはありませんが、当社ではいちごに練乳をかけるお客さまの数は減っていないと認識しています。数十年から現在までの出荷量の推移を示すデータは公開できませんが、ここ数年は横ばいです」と説明した。
生産者はどう考えているのだろうか。記者はかつて子どもを連れていちご狩り体験に出掛けたことがあるが、農家の男性から「何もつけないで食べるのが一番おいしいですよ」と言われたことがある。いちご狩り体験を実施している農家のWebサイトをいくつか見ても、そのまま食べることを推奨している。
以上の情報を総合すると、少なくとも何もつけずにいちごを食べる消費者の割合は増えていると推測される。練乳や砂糖がからみやすいように、いちごをわざわざつぶして食べるシーンが増えているとは言い難い。
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