大阪人は食べていなかった? “串かつ業態”ブームの真相:長浜淳之介のトレンドアンテナ(2/6 ページ)
串かつ居酒屋チェーン「串カツ田中」の業績が好調だ。ライバルの「串かつでんがな」や「串家物語」も店舗数が増えた。串かつ業態がブームとなっている背景とは?
不足していた開業資金が立地選定に影響
串カツ田中の1号店となる世田谷店(東京都世田谷区)が、東急世田谷線世田谷駅の近くにオープンしたのは08年12月。世田谷線は都電荒川線と共に、今では珍しくなったチンチン電車が走っており、東京とはいえかなり奥まった場所にある。同社の広報によれば、1号店は貫啓二社長が見つけた居抜き物件に300万円程度でオープンした。開業資金があまりなかったことも、立地選定に大きく影響している。
1号店は路面にあって看板が大きく、全般的に“海の家”の雰囲気が漂う。テーブルと椅子を並べただけのようなチープな店舗は「磯丸水産」などの海鮮居酒屋に似ているが、そこで大阪発祥のB級グルメである串かつを売った。商材と店舗の外観や内装が見事にハーモナイズされており、顧客単価2400円を想定していた。このお店が月間売り上げ目標450万円に対して最大800万円と予想をはるかに上回る大ヒット。半年ほどで開店前から大行列ができるようになって、飛躍の足掛かりを得た。
世田谷駅のあたりは、同じ世田谷区であっても成城や二子玉川のような高級住宅街というより、下北沢や三軒茶屋に距離的にも近く、演劇・音楽関係者も多く住んでいる。彼らは必ずしも世間で言うところの売れっ子芸能人などではないが、チープな酒場で飲んでいる姿が絵になる。そうした顧客たちの発信力、つまり口コミで繁盛店となっていった。
急速に成長した「串かつでんがな」
住宅街の立地だったため、休日になると開店直後から小さな子どもを連れた若い夫婦が来るようになった。そこで、普通の外食チェーンが注目しない住宅街への出店戦略をとった。串カツ田中には、犬の散歩ついでに立ち寄れる「ペット可」の店舗も数多く存在する。
最大のライバルである串かつチェーンには、宅配ピザ最大手「ピザーラ」を運営するフォーシーズが展開する「串かつでんがな」があり、関東を中心に81店を展開している。串かつでんがなは08年4月、東京都渋谷区に1号店を出店。串カツ田中よりやや先行してフランチャイズ(FC)展開で発展してきたが、2年前からピタリと店が増えなくなった。
これは串かつでんがなが出店する主要駅1等地に、串カツ田中も進出してきた影響が出ていると目される。世田谷の住宅街で生まれた串カツ田中のほうがローコストのオペレーションに長けており、そこで差がついている。それと禁煙策のアピールといった宣伝力の差だ。
串かつでんがなは、大阪・新世界にある「ジャンジャン横丁」の串かつを参考に商品と店舗の開発を進めていて、こちらのほうが本格的だという串かつファンも多く存在する。
串カツ田中はキャベツをお通しとして有料にし、利益率向上に寄与させている。一方、串かつでんがなは大阪スタイルを貫いており、キャベツは無料でお通しはない。また、大阪の串かつ屋では、一般に店員が串かつを揚げている間、顧客は牛スジみそ煮込みの「どて焼き」で1杯やりながら待つのだが、そのスタイルを串かつでんがなはそのまま東京に持ってきた。串カツ田中にも一品メニューに「牛すじ土手」なる煮込みこそあるが、積極的に推しているように見えない。
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