「なまはげ」居酒屋にお客が殺到! 秋田県内に“存在しない空間”の魅力とは:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/6 ページ)
秋田県の郷土料理と「なまはげ」と触れ合える居酒屋にお客が殺到している。その再現度の高さから秋田県人以外も魅了している。大ヒットの秘密とは?
なまはげはなぜ成功できたのか
AKITA DININGなまはげはなぜ成功できたのだろうか。前出の日景社長は「民間の力で、本物を提供することにこだわってきたからだ」と強調する。
都道府県のアンテナショップというと当時は物販が中心で、飲食店はほとんどなかった。それをいち早く形にして実現したことが大きい。秋田県は広く、行政が運営にかかわると「なまはげは男鹿以外はやってないから、(運営は)男鹿にお任せ」となりがちである。
同様に、きりたんぽは県北の大館市が本場で、県南の由利本荘市あたりでは食べない。かまくらは横手市の風習で他の地域にはない。他の都道府県の人が秋田県を連想するものが、実は一部地域の名産や風習なのだ。きりたんぽを食べたことがない秋田県民、かまくらを体験したことない秋田県民はたくさんいる。
また、稲庭うどんを食べに産地の湯沢市に行っても、製麺所はたくさんあるが、実際に食べられる専門店は数店しかない。郷土を感じにくい名産品である。
多店舗展開に消極的なワケ
オール秋田の魅力を集めたAKITA DININGなまはげは、秋田県内には存在しない空間で、あり得ない組み合わせの料理を出す店ということになる。しかし、1つ1つのディテールにこだわることにより、秋田県民が来ても秋田を再発見できる場所となっている。
例えば、稲庭うどんは万延元年(1860年)創業の老舗・佐藤養助商店(秋田県湯沢市)に、横手焼きそばは代表的な製麺所の石谷製麺工場(秋田県横手市)に、それぞれ株主になってもらって本物の味を出している。かまくら個室は横手市観光協会に聞いて、水神を祭るなど地元に伝わるやり方でつくっている。器も大館市の曲げわっぱ、湯沢市の川連漆器などの伝統工芸品を使うといった具合だ。
秋田県内の全酒蔵35蔵の日本酒を置いているのも特徴だ。15年前は焼酎ブームで日本酒が売れなくて困り果てていた。今でこそ新政酒造(秋田市)のように海外にまで名声が轟く蔵元もあるが、当時はまず大消費地である東京の人に味を知ってもらい、販売ルートを開拓することが重要だった。
その意味で、AKITA DININGなまはげは秋田の酒造業の復興に貢献するなど、地元の産業に良い影響を与えてきたと言えるだろう。本物を提供し続けるために、日景社長は多店舗展開には消極的で、オンリーワンの価値を届けていきたいとしている。
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