残業が習慣になる4つのメカニズムはこれだ!:ダメな組織の闇(5/5 ページ)
「長時間労働をやめよう」というスローガンは、日本の雇用社会においてずっと指摘されてきた、古くて新しい課題です。なぜ一向に変わっていかないのでしょうか……?
職種ごとの特徴
メカニズムを4つに整理して説明してきました。これらの特徴は、職種によって違いがあります。それぞれのメカニズムの代表的なデータを分かりやすいよう偏差値化して比較しました。
これを見ると、ホワイトカラーは「集中」が、システムエンジニアやプログラマーのようなIT系技術職は「感染」が強くみられます。ブルーカラーは「麻痺」につながる60時間以上の超長時間労働者が多く、「遺伝」を導く上司の長時間労働経験は、企画・クリエイティブ系の職種に多いようです。このように職種によって起こりやすいメカニズムには濃淡が見られており、画一的な対策をとるだけでは限界があります。
残業の「組織学習」を解除するため、コンディションを把握せよ
ここまで述べてきた残業のメカニズム、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」をトータルで考えると、残業習慣が「組織学習」されている、ということが言えます。「集中」「感染」によって発生した残業は、過度になると「麻痺」の可能性が高まり、自発的な残業を招きます。残業経験は積み重なり、「遺伝」によって世代と組織をまたいで継承されていきます。それぞれのメカニズムは相反するものではなく組織レベルと個人レベル、世代レベルで強化し合っています。
個人が身に付けてしまった習慣が、組織に共有され、広がり、定着し、また個人に影響を与える、これが「組織学習」であることで重要なのは、組織から人が入れ替わっても、この学習効果が組織内に残り続けるということです。
「学習」とは、多くの場合、やれなかったことができるようになる、新たな知識を蓄えていくといった前向きなプロセスに使われる言葉ですが、ここではいわば「負の組織学習」が行われています。この温存の構造に対して、「お前が悪い」と誰かを指弾することや、「意識を変えるべき」と抽象的な次元で議論することはほとんど意味をなさないでしょう。
現在、企業で行われている残業施策の取り組みの多くが、主に「勤怠時間」ないし「売上高」などの表面的な数値変化によって効果が測られてしまっています。ここまで議論してきたことを踏まえると、この取り組みは大きな不足です。真に「働き方」を変えるためには、こうした組織内メカニズムが解除される必要があり、そのプロセスをオミットして「平均労働時間」「時間あたり成果」だけ追いかけると、どこかに必ず歪みが生まれます。
まず必要なのは、「自分たちの組織がどういったコンディションにあるのか」をサーベイやヒアリングの現場レベルで把握し、トレースすることでしょう。「組織内」のメカニズムが自分たちの職場でどうなっているかを正確に把握し、組織状態に即したメカニズム解除の方策を練っていくことです。
「集中」も「感染」も、平均値された残業時間からは分かりません。残業時間は組織の様子を表すものでも働き方を示すものでもなく、単なる透明な数値です。まずは、組織別の長時間労働の要因を探り、どういったメカニズムで長時間労働が起こっており、温存されてきた学習メカニズムを断ち切っていく作業が必須となるはずです。
<参考文献>
Ed Diener, Robert A. Emmons, Randy J. Larsen and Sharon Griffin,1985,"the Journal of Personality Assessment".
岩崎健,2008,「長時間労働と健康問題研究の到達点と今後の課題」,日本労働研究雑誌50(6),労働政策研究・研修機構
独立行政法人 労働政策研究・研修機構,2006,「労働政策研究報告書 No.49 変革期の勤労者意識」
著者プロフィール
小林祐児(こばやし ゆうじ)
パーソル総合研究所 主任研究員
世論調査機関に勤務後、総合マーケティングリサーチファームにて、各種の定量調査・定性調査・訪問調査・オンラインコミュニティ調査など、多岐にわたる調査PJTの企画-実査を経験した後、2015年入社。専門は理論社会学・社会調査論。現在の主な研究領域は長時間労働是正問題・ミドル・シニア層の社内躍進・アルバイト・パート領域のマネジメント・新卒〜若年者のキャリアなど。
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