残業削減に「魔法の杖」は無い 働き方改革がうまくいかないこれだけの理由:「残業学」教授が解き明かす(1/4 ページ)
今の働き方改革は果たして残業削減に効いているのか。欠点と真に効く対策について大規模調査を行った立教大教授に聞いた。
働き方改革の本丸である残業削減。転職サイトdodaを運営するパーソルキャリアが2018年6月に正社員の男女3000人に行ったアンケートによると、26.3%が「1年前に比べて残業が減った」と回答した。その要因として最も多く挙がったのが「会社の制度変更」だ。一方で、17.4%の人が「残業は増えた」と回答している。
確かに働き方改革という錦の御旗のもと、各職場でいろいろな残業を減らすための施策がとられている。一方で終業後明かりが消えた職場でこっそり働いたり、自宅に仕事を持ち帰ったりしているという従業員の話にも事欠かない。人事部や経営サイドの号令による働き方改革の施策が、現場ではあまり機能していないと感じる人も少なくないのではないだろうか。
現在職場で行われている働き方改革が、なかなか残業を減らしていないように見えてしまうのはなぜか。話を聞いたのは、パーソル総合研究所(東京都港区)と組んで残業の大規模調査を行い、『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社新書)を執筆した、人材開発・組織開発が専門の中原淳・立教大学教授だ。前回の「あなたが残業を止められない真の理由」(関連記事を参照)に引き続き、今の働き方改革の欠点と、実際に「効く」残業対策について直撃した。
社内の「お触書」だけではダメ
――本書で職場での働き方改革の落とし穴として触れられているのが、正確な労働時間が見えにくくなる「残業のブラックボックス化」と、現場からの信頼感が低下する「組織コンディションの悪化」、そして「施策の形骸化」です。特にこの「形骸化」の原因として挙げられている1つ、企業人事が現場に「通達」を一方的に送りつける「お触書(おふれがき)モデル」は痛感しているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。本調査によると、残業施策の2割がイントラネットでの告知や一斉メールの送信だけにとどまっているとのこと。確かに「お触れ」を出したきりで、従業員が残業施策をちゃんと実践するとは限りません。
中原: 企業の人事部の仕事はこの「お触書」を出すことではありません。人事の施策を出して、現場で実践されるように運用し、経営にインパクトを与えることなのです。会社の方針を「通達」するだけならメールだけでも可能です。しかし、人事の仕事とは通達した内容が現場で実践されるように、従業員を「その気」にさせることなのです。
人事の世界には伝統的に「企画や制度を作る人が偉い」という風潮があり、「企画8割、運用2割」と言われてきました。しかし、私は「企画2割、運用8割」だと思っています。従業員に学習させて実際にやってもらう、運用の部分にとてもコストをかけるべきだったのです。「企画8割、運用2割」では、「よい人事制度をつくったけれど現場は動かない」ということが起こりがちです。
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